医師が選んだ医事紛争事例 181  PDF

骨折を脱臼と誤診

(10歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、友人との腕相撲により右肘関節を脱臼した疑いで、本件医療機関を受診。医師は、右肘関節部のレントゲン撮影をしたが、骨折の有無は判然としなかった。脱臼と診断してギプスシーネ固定を2週間実施した。その後、右前腕に阻血性拘縮が起きないように、医師は患者にリハビリとして、振り子や平泳ぎ、じゃんけんなどの動きを実施させた。ギプスシーネの除去から約1カ月後に、あらためてレントゲンを撮影したところ、右上腕骨内側上顆骨折が判明した。患者の母親の求めでA医療機関を紹介したところ、さらにB医療機関を紹介され、右肘の骨折部に人工骨を用いた手術が実施された。
 患者側は脱臼と診断されていたにもかかわらず骨折していたことに不満を持ち、慰謝料、医療費、通院費などを請求した。
 医療機関側としては、初診時のレントゲンの写りが悪かったが、医師は成長期である患者に対して被曝の影響を考慮し再撮影しなかった。また、再撮影したところで必ず骨折を発見できたかは不明であり、過誤の有無に関しては明確に判断できない上、ギプスシーネ固定していたため骨折の予後に影響がなかったのではないかとの見解を示した。
 紛争発生から解決まで約8カ月間要した。
〈問題点〉
 以下の点により医療過誤が認められた。
 ①医師は初診時のレントゲンの写りが悪いと自覚しながら撮り直さず、その結果、右上腕骨内側上顆骨折を見落とした(仮に患者側がレントゲンによる被曝を嫌がったとしても、被曝による不利益と撮り直しによる診療上の利益を比較衡量して判定する必要があり、撮り直さなかった理由にならない)。
 ②初診時の骨折部の状態が亀裂の段階では、レントゲン像に骨折線が見えないが、時間経過とともに骨折部の亀裂が拡大して見えたり、また傷害部に仮骨形成像が生じて骨折していたことが判明する。そのため、特に成長期の患者に対しては、ギプスシーネを除去した際など特定の時期には再撮影して経過を見る必要がある。また、より正確に判定するには、左右両側のレントゲンを撮って比較すべきであった。
 ③ギプスシーネ除去後、骨折が判明するまで右前腕に阻血性拘縮を起こさないためとはいえ、振り子運動などを実施したことは不適切であった。ただし、患者の予後に影響を与えたか否かは不明。
 また、患者はB医療機関で手術を受けているが、仮に初診時点で骨折が判明していたとしても、手術の必要はなかったかどうか、あるいは、より簡易な術式で済んだかどうかなどは、初診時のフィルムが不鮮明で判定できないため断言できない。
〈結果〉
 医療機関側は、弁護士を介して患者側に賠償金を支払い示談した。

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