談話 新型コロナウイルス感染症「5類」移行に関して コロナ死亡者を不可視化してはならない  PDF

 新型コロナウイルス感染症との闘いは3年を超えたが、本日もなお多数の犠牲者が生み出されている。厚生労働省のデータではオミクロン株が猛威を振るった第7波と重なる2022年6月15日 11月30日の間の全国の死亡者数は2万914人。これに対し2022年12月1日 2023年3月2日の間の全国の死亡者は2万2929人であり、直近3カ月でそれ以前の半年間の死亡者数を上回っている。累積死亡者数7万1960人の3分の1の方は同期間に亡くなったのである。一方、「高度重症病床使用数」は低位であり、オミクロン株は伝播性が非常に高い一方、重症度が低いとの見解を裏付けるものである。だが京都府においてもコロナ死亡者がゼロであった日はほぼ無いに等しい。
 このような状態を放置したまま、明確な医学的根拠も示さず厚生科学審議会感染症部会が「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある状態とは考えられない」(2023年1月)と断じ、岸田政権が23年5月8日からコロナを「感染症の予防及び感染症の患者の医療に関する法律」(感染症法)上の「新型インフルエンザ等感染症に該当しないものとし、5類感染症に位置づける」としたことは、拙速と言わざるを得ない。
 5類移行によってコロナが弱毒化したり、感染が収束したりするわけではない。もちろん本来、2類であれ5類であれ、地域の医療者が総がかりでコロナ患者さんの診断・治療にあたる体制構築を目指すべきである。だがコロナの伝播性の強さ、重症化・死亡リスクの高さといった性質に対し、今のところ医療者は現実的な受け入れイメージを持つ状況に至っていないのが現実である。このまま5類移行を強行すれば、正確な感染状況を誰も把握できず、引き続き外来・入院の受け入れ困難は続き、医療にかかれた患者さんには一部負担金が発生し、それ故の受診抑制が広がる恐れもある。そのようにして、府民から見えない場所でコロナ死亡者が累々と増え続ける。そんな社会の到来を私たちは望まない。
 焦点は「医療へのアクセス」である。今、国や地方自治体に求められているのは「5類移行」に向けた「緩和」でなく、確実に医療を保障する体制づくりである。この3年にわたるコロナ禍における医療問題の焦点は、罹患した人が適切な医療を受けられずに死んでいく事実である。なぜ自宅療養者が医療を受けられず死亡したか、なぜ社会福祉入所施設での留め置き死が防げなかったか、なぜ外来はひっ迫したか。国・自治体はコロナ前の医療・社会保障政策の経緯にも遡って検討すべきである。それをしないままの5類移行は棄民に等しく、コロナ死亡者を不可視化し、結果、医学と社会の進歩を妨げるものである。
 私たち医療者は地方自治体とともに積極的に新興感染症対応に取り組みたいと考えている。そのためにも公衆衛生政策の根本的な強化が必要であり、その責務は社会保障の実施主体である国・自治体にあることをあらためて訴えるものである。
2023年3月24日
京都府保険医協会
理事長 鈴木 卓

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