政策解説 医療費適正化路線の強化とかかりつけ医機能報告制度の導入― 医療へのアクセス保障に向けた対案が必要 ―  PDF

医療保険制度の基盤強化と医療費適正化計画の改定

 「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」(以下、法案)は「医療保険制度の基盤強化」として「前期高齢者医療」への給付費を対象とした保険者間の「財政調整」を変更する。これまでの前期高齢者(65歳~74歳)の加入数に応じた調整から「各保険者一人当たりの総報酬」も反映させる。これにより報酬水準の高い保険者では給付費が増加する一方、協会けんぽの財政負担は▲970億円となる。
 さらに注目すべきは「都道府県医療費適正化計画の見直し」である。国の法案概要によれば、2024年からの第4期医療費適正化計画の「実効性」を高めるべく、「複合的なニーズを有する高齢者への医療・介護の効果的・効率的な提供」や「医療資源の効果的・効率的な活用」が打ち出されている。だがこの記載からは本改定の本質を伺えない。そこで「新旧対照条文」を見ると、驚くべき改定が施されようとしている。
 それは「医療費適正化」の計画に定める事項の書きぶりが大きく変更されていることである。例えば、現在の法文では「住民の健康の保持の推進に関し、当該都道府県において達成すべき目標」と書かれているが、法案は「住民の健康の保持の推進に関し…医療費適正化の推進のために達成すべき目標」と変更。これは「医療の効率的な提供の推進」の項も同様である。すなわち、住民の健康の保持が結果として医療費適正化につながるという立場が法律上も放棄され、医療費適正化そのものが目的化されることを意味する。
 その上で、「医療費適正化目標の達成に向け」「都道府県が留意すべきこと」に、現在の「地域における病床の機能分化および連携の推進」(≒地域医療構想の推進)と「地域包括ケアシステムの構築」に加えて「かかりつけ医機能の確保」が新たに書き加えられる。

医療・介護の連携機能および提供体制などの基盤強化

 中心を成すのが「かかりつけ医」に関する新たな「制度」である。具体的な制度構想は大きく3点である(図)。
 一つめは「医療機能情報提供制度の刷新」(24年4月施行)である。同制度は06年の医療法改定で導入され、病院などに対し、自らの医療機能にかかる情報を都道府県知事に報告するよう義務付けている。情報は京都府では「京都健康よろずねっとⅲ」に公表される。
 具体的には「情報提供項目の見直し」と「全国統一システムへの移行」である。厚生労働省が「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」(1月12日)に示した案では、一般不妊治療や生殖補助医療を追加する他、「オンライン資格確認により取得した診療情報を活用した診療」や「電子処方箋の発行」などが挙げられている。一方の「全国統一システムへの移行」は共通基盤(G-MIS)を用いて、項目追加とともに24年4月に施行される。「かかりつけ医機能報告制度」も「刷新」の一環だが、具体的な項目は今夏に検討される。
 二つめが「かかりつけ医機能報告制度」(25年4月施行)の創設である。「かかりつけ医機能」を「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」と法定化し、その上で病院・診療所は自らのかかりつけ医機能を都道府県知事に報告する仕組みをつくる。報告内容は①日常的な診療の総合的継続的実施②休日・夜間等の対応③入院先の医療機関との連携、退院の支援④在宅医療の提供⑤介護サービス等との連携とされるが、詳細は法改定後の「省令」に委ねられる。報告を受けた知事は医療機関の機能を「確認」して公表する。
 さらに、報告された内容を使い、先行して制度化された外来機能報告制度における「協議の場」での「協議事項」に組み込む。報告を求める医療機関は「かかりつけ医機能報告対象病院等」とされ、無床診療所も対象とみられるが、正確には不明であるⅳ。
 三つめは、「患者への説明」である。これは、都道府県知事に報告を「確認」された医療機関が慢性期を有する高齢者に在宅医療を提供する場合など、外来医療での説明が特に必要な場合であって、患者が希望する場合に、かかりつけ医機能として提供する医療の内容について電磁的方法または書面交付により説明するよう努めるとされる。

歴史的にみて、かかりつけ医機能報告と外来機能報告制度の合体の意味するもの

 歴史的にみれば「かかりつけ医」「制度化」は、小泉政権以来の医療制度構造改革の延長線上にある。国は医療費の「地域差是正」を目標に「効率的」で「平準化」された医療提供体制実現を目指し、「地域医療構想」(17年策定)では病床数をⅴ、「医師偏在指標」「医師確保計画」(20年度)では医師数を管理・コントロールすることを目指した。22年4月施行の「外来機能報告」と「かかりつけ医機能報告制度」の合体もその流れに位置付けられる。
 外来機能報告は入院医療機関に対し、自らの外来機能(具体的には「医療資源を重点的に活用する外来」の占める割合等ⅵ)の報告を求め、地域の「協議の場」において、当該地域の「紹介受診重点医療機関」を決め、「かかりつけ医機能を担う医療機関」との役割分担を協議する仕組みである。これと「かかりつけ医機能報告制度」が組み合わさるのである。「紹介受診重点医療機関」と「かかりつけ医機能」を持つ医療機関に、地域の外来機能を二分化する流れが強まることは間違いない。
 法改定に至る経緯において「財政審建議」(22年5月)が、開業医がコロナ禍に役割を発揮せず、フリーアクセスも役に立たなかったと批判し、イギリスのNHSにおけるGP制度を念頭に、患者が一人の「かかりつけ医」を登録する仕組みの制度化を求めた。今回は医療界の批判ⅶを受け、一足飛びに「登録制」には至らなかったが今後、今回の改定を足場により強制的な手段が講じられる危険性は高いだろう。

どんな事態にあっても医療を保障する政策と実践を

 日本医師会の横倉義武名誉会長が会長を務める「これからのかかりつけ医の在り方を考える会」は1月30日に提言を発表した。提言はかかりつけ医の役割は狭い意味での診療・医療の提供にとどまらず、日常的な健康管理や相談支援、介護等福祉サービスとのハブ機能、「非常時の公衆衛生における役割」も求められていると指摘する。こうした貴重な動きにも学びながら、国が医療費適正化策として導入を狙う「かかりつけ医制度」に対抗し、コロナ禍を踏まえ、国民皆保険体制をステップアップさせ、どんな社会情勢にあっても確実に医療へのアクセスを保障する政策と実践が求められている。

ⅰ 出典:「全世代型社会保障改革の方針」(2020年12月)。同方針は菅政権下、「負担能力のある方に可能な範囲でご負担いただくことにより、後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが、今、最も重要な課題」と記していた。
ⅱ 新型コロナウイルス感染症拡大期における高齢者などの「施設留め置き死」はすでにそうした情勢の到来を象徴しているといえる。また昨今ではメディアに登場する研究者が少子高齢化克服のために「高齢者の集団自決しかない」と発信し「炎上」した。
ⅲ http://www.mfis.pref.kyoto.lg.jp/ap/qq/men/pwtpmenult01.aspx
ⅳ この部分の解説にあたっては国保実務(第3348号・2023年2月20日号)を参照した。
ⅴ 国は2024年度からの新たな都道府県医療計画に向け、地域医療構想達成を迫る。府内でも福知山市民病院大江分院で病床削減がなされた他、民間病院でも病床再編が進み、着実に病床数は減少(2016年29,690床→2021年28,113床)している。
ⅵ 「医療資源を重点的に活用する外来」とは、入院の前後の外来など、診療報酬上、手術や処置、麻酔などを用いる医療内容を指す。その割合が、初診40%、再診25%以上であれば、当該医療機関は「紹介受診重点医療機関」になり得る基準を満たす。
ⅶ 協会は、制度化によらないかかりつけ医機能発揮を目指すべきとの提言を2022年6月に発表した。「かかりつけ医の『制度』ではなく、『機能』を発揮できる医療制度の在り方を求める提言」(2022年6月14日) https://healthnet.jp/informations/informations-38179

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