私のTPP考 牧野吉秀(福知山)  PDF

私のTPP考 牧野吉秀(福知山)

「食」守らずして医療なし

私は医療のことは全くわからない。しかし、近所(兵庫県境の上豊富地区、福知山市榎原)の農家の現状なら、非常によくわかる。

ほとんどが米、野菜を自給しながら、専業・兼業農家として生活している。昔からの(牧野の先祖は鎌倉時代に遡及)田畑を守り、終戦後の農地改革を経て(戦前・戦後、地元の百姓の窮乏を無視し、政府は米供出を強制した過去を忘却)、今日の複雑な社会状況の中、老齢化、限界集落を邁進中である。足腰が弱り、百姓ができなくなると近所の若手(中年)農家グループが立ち上がって、代わりに畔、草刈等を整備しながら作付しているのが現状である。

さて、今回のTPPで政府・経団連などが「力強い農業」などといって企業参入を促すも、儲からなければ撤退するのが彼らの常道である。これまでも農業生産法人に出資する形で参入したオムロンが、ハイテクを駆使した7ヘクタールもの巨大温室トマト事業から、わずか3年で撤退したのは記憶に新しい。すでに経営面積は都道府県平均1・7ヘクタールで、北海道は10・62ヘクタールである。TPP加入国の米国は、たとえ日本の水田経営面積が30ヘクタールとなっても日本の6倍、オーストラリアに至っては実に100倍もの経営面積である。日本の農産物が太刀打ちできるはずがない。

本邦の食糧自給率が40%から13%に激減し、農地は放棄地となり、荒れ放題となるのは必定で、地域の疲弊は度し難いものとなる。民主党も2020年に自給率50%といっていたではないか! 菅および野田元総理が、TPP参加表明という、全く矛盾の言を述べたため、年末の衆院選は農家を含め、国民が一斉蜂起したのである。

私は医療の前にまず「食」と考える。衣食足って医療を知るだ。食べ物なくして医療はない。食糧主権を放棄し、国土への愛着を忘失し、政府は憲法改正云々というも、いくら憲法を変えても、土地を愛さぬ国民など国民ではないのだから、その異邦人のための憲法改正など意味があるのであろうか。地産地消など謳い文句は美辞麗句まみれも、牛肉・オレンジの開放から始まって、ウルグアイラウンドでの一層の農家への仕打ち、挙句の果ては今回のTPPでのダメ押しと、徹底した農家つぶしの現状がある。また、TPPは農業だけでなく、日本の仕組み自体を完全に崩壊させてしまうのだ。

すでに政府や大企業家たちは気づいているはずだ。日本興国論には成り得ないことを。邦人ではない、流浪者の新自由主義者としてのみの存在の大企業家たちは、明日どこをさまようのだろうか。今もし井深、盛田、本田、松下などの著名な先人企業家たちが存命であれば、なんというであろうか。企業家としての矜持、日本人としての独立への気概はいずこへ! そして、TPPで国破れても樅の木は残っているのであろうか。

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