シリーズ環境問題を考える 157  PDF

北陸新幹線延伸問題を考える

 今年は1872年10月14日新橋―横浜間に鉄道が開通し150年を迎えました。明治政府以来、国は交通政策として鉄道整備を優先し、日本の都市と地方を網の目のように鉄道でつなぎ近代化と殖産興業を図ってきました。鉄道は陸上での人や物質の大量輸送を可能にし、また鉄道の運営と維持に大きな雇用の受け皿として、日本の社会や発展を支えてきました。戦争にも利用され、中国大陸で南満州鉄道を開通させました。しかし1950年代より始まったクルマ社会の到来で国内の交通事情が大きく変わり、70年代には輸送シェアが鉄道を抜いて、輸送手段の主役は自動車に委ねられるようになりました。鉄道は衰退し、多くが廃線となり、自動車のための道路が整備され、全国に高速道路が張り巡らされました。人々の暮らしがクルマ中心となり、自動車の普及・利便性が増すとともに、交通事故、交通渋滞、公害(大気汚染、騒音、振動など)、公共交通の縮小、買い物難民、子どもの遊び場の消失、道路建設による環境破壊などの負の部分も明らかになりました。
 近年、世界中の国々で暴風雨、洪水、干ばつ、森林火災、熱波、氷河の流出、海面・海水温の上昇など気候異変が起きています。産業革命以来の平均気温1・1℃上昇の地球温暖化のせいで、主に大気中のCO2の蓄積によるものとされています。何とか平均気温1・5℃までに収めようと世界中の人が現在努力していますが、達成できるのか不定です。日本国内で2020年のCO2総排出量のうち運輸部門の占める割合は17・7%であり、そのうち85%を自動車が占めています。鉄道はわずか4・2%に過ぎません。旅客1人を1㎞運ぶ時に排出するCO2を比べると鉄道は自家用車の7分の1、強化・発展・普及させることが大事です。
 1964年東京―大阪間に東海道新幹線が開通しました。その後延長、山陽新幹線として1975年博多まで全線開業となりました。1970年には全国新幹線鉄道整備法が交付され、それに基づき全国で新幹線が続々と誕生しました。北陸新幹線も1997年高崎―長野間、2015年金沢まで延伸し、2024年には敦賀まで開業の予定です。敦賀以西のルートは着工されていないものの、若狭ルートとして福井県小浜、京都府内を通り大阪に至るとされています。建設費2・1兆円、全ルートの8割がトンネル区間で、建設されると大量の残土(ヒ素など有害な汚泥含む)の処理、環境破壊、トンネルによる地盤の変化、京都市街地の地下水の枯渇、採算性など多くの問題点を抱えています。建設費からJRが払う設備の賃料を差し引いた額の3分の1を自治体が負担するとのこと、メリットが乏しい線路が通る京都府の住民や自治体からは、反対や懸念の声が上がっています。2024年開業予定の敦賀駅では、1階が大阪とつなぐ「サンダーバード」、名古屋とつなぐ「しらさぎ」の発着、2階がコンコース、3階が金沢と結ぶ新幹線の発着場と設定されています。将来人口減少が見込まれ、円安・ドル高で経済悪化、物価の上昇、莫大な国の借金、地球環境の悪化が叫ばれている今、鉄道がCO2の削減に貢献するとはいえ、北陸新幹線延伸計画は中止するべきと思います。皆さんはいかがお考えでしょうか。
(環境対策委員山本 昭郎)

建設中の新 「敦賀駅」(著者撮影)

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