医師が選んだ医事紛争事例 175  PDF

心電図モニターの取り違いで脳死

(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 本件患者は、パーキンソン病と認知症に罹患し治療した既往がある。今回、嚥下障害が生じたため胃瘻造設術を目的に入院し、翌日手術を受けた。術後、主治医は咽頭残留物および喀痰が増えたため吸引処置を行い、また手術3日後には、血性痰を認めたため気管支ファイバーを実施した。さらに、念のため心電図モニターが必要と考え、簡易心電図モニターの装着を日勤看護師に指示したが、日勤看護師はそれを失念し約9時間後の装着となった。この簡易心電図モニターは本件患者に装着する前、他の患者Aに使用していたが、患者Aはその後セントラルモニターに変更していた。この患者Aのモニター装着変更時に、外した簡易心電図モニターに患者Aの氏名の登録が消されておらず、日勤看護師は登録患者名Aのまま本件患者に簡易心電図モニターを装着した。さらに日勤看護師は、夜勤看護師への引き継ぎ時に、本件患者に簡易心電図モニターを設置したことを報告せず帰宅した。詰所ではその時、登録患者を同一名Aとしてセントラルおよび簡易の二つのモニター回路に重複してセットされていたことになる。
 手術5日後の夜間に、登録患者名Aの二つのモニターのアラームがほぼ同時に鳴り、看護師たちはその事を疑問に感じながらも患者Aの病室に向かい対応した。その約10分後にも二つのアラームが鳴ったが、看護師はアラームを切って当直医を待ち、約15分後に患者Aは死亡と診断された。その後、改めて二つのアラームが鳴り、患者Aのセントラルモニターをリセットし閉鎖した。看護師たちはもう一つの簡易心電図モニターが誰のためのものか疑問に思いながらもアラームを切って通常勤務についた。
 一方、本件患者については、定期見回り時(最初のアラームが鳴ってから約30分後)に訪室したところ、呼吸停止、頸動脈触知不可が確認され、すぐに喀痰吸引し蘇生術を実施したが、脳死状態となり約1年後に死亡した。
 患者側は弁護士に委任して調停を申し立てた。
 紛争発生から解決まで約6年間を要した。
〈問題点〉
 問題点は以下の5点。
 ①日勤看護師が本件患者に簡易心電図モニターの装着を失念し、装着は約9時間後になった。また、引き継ぎの夜勤看護師に装着したことを伝えなかった。
 ②日勤看護師が本件患者に簡易心電図モニターを装着する際に、前回使用していた患者Aの氏名を消さず本件患者に装着し、本件患者の氏名を登録しなかった。
 ③3人の夜勤看護師は詰所においても、患者Aの氏名が登録されているモニターが二つあることに気付かなかった。
 ④患者Aの死亡前後に、夜勤看護師は患者Aの氏名の二つのモニターがほぼ同時に鳴って疑問に思ったが、簡易心電図モニターが誰のものであるか確認しなかった。本来であれば、モニター装着した患者を見つけるため、1人ずつ訪床する必要があったとも考えられる。
 ⑤いくつもの要因が重なり、本件患者の異常に気付くのが約30分遅れて脳死状態となった。
 以上、全ての要因が本件医療機関の過誤とは限らないだろうが、総合的に判断して過誤は認めざるを得ない。本件医療機関には心電図モニターの装着手順のマニュアルがなく、例えば、心電図を外した時に患者名を常にリセット状態にしておくなどの装着時のルール化が必要であった。
〈結果〉
 調停において和解に至った。

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