医界寸評  PDF

 過日のことであるが、ひょんなことから京都府外の、ある医療施設で新型コロナワクチン接種の問診担当医の役目を仰せつかった。自院でも通常業務で実施している内容という理解であったが、現地で案内された問診場所に驚かされた。そこは患者やスタッフが行き来する廊下のような所で、パーティションなどもない全くのフルオープンスペースだったのである▼ワクチン接種の問診は、接種の可否を判断する医師の役割であり、当然被接種者の健康状態の把握や場合によって持病や服薬歴などを聞き取る必要があり、高度の個人情報といえる。これまでの経験で、このような問診場所には囲いなどプライバシーへの配慮がなされていたことから、担当者に「ここでは配慮不足では」と率直な疑問を投げかけたが、「当院ではこの形で問題ありません」と木で鼻をくくったようなお答えであった▼一方、ワクチン接種は診察室として使われている個室に一人ずつ入室し、逐一扉を閉めた形でナース一人で実施していたが、接種直後のアナフィラキシーなどへの緊急対応には望ましい形とは感じなかった▼これらは医療安全上の問題と捉えるべき内容で、今後もワクチン接種が続く中で、反省すべき他山の石と思われた。業務終了後、目に留まった「患者さんの権利を第一に」の看板が虚しかった。(運動子)

ページの先頭へ