シリーズ環境問題を考える 156  PDF

戦争こそ気候危機の元凶である

 「戦争:武力による国家間の闘争」(広辞苑)ほど人間行為の中で、愚かな、無益で悲惨なものはない。私たちは戦争において、人種・民族・宗教間の対立、資源・国境争い、軍事同盟などのために、熱狂、大量殺人、環境の破壊・汚染、人権侵害、残虐行為、難民流出、子どもたちの教育放棄など圧倒的な負の側面を見る。恐怖、興奮、苦悩、失意、悲哀、不安、絶望、恥辱、悪臭などの五感に及ぼす影響、PTSDも見逃せない。
 現在、私たちは“人新世”の時代に生きていて、今後有効な手立てを打たず、ずるずると時を過ごせば、地球環境の悪化で生物の多様性が失われ、人類も生き残るためには多大な努力を要する時代が来ると予測される。
 地球環境の悪化の中心は気候変動であり、主に二酸化炭素の濃度上昇による地球温暖化である。蒸気機関の発明・産業革命以来、人間の産業活動でいつの間にか温室効果ガスの蓄積により、現在地球の平均気温は1・1℃上昇した。近年の熱波、干ばつ、暴風雨、洪水、森林火災、氷河の消失、海温・海面上昇など異常気象が引き起こした災害は数知れない。「パリ協定」で合意した2030年までに温室効果ガスを半減、2050年にゼロにしても1・8℃上昇は避けられない。今世紀末には約2・5℃まで上昇すると、国連機関は警告している。この11月エジプトで開かれたCOP27での世界の合意が鍵となる。
 2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が突然始まった。その後、ウクライナ・ロシア間の戦争に発展、現在も両国間の戦闘は続いている。戦争ほど環境を破壊、汚染するモノはない。地球温暖化を助長、気候危機を一層招く代物である。戦争はエネルギーを極めて大量に消費する。上空を飛び交うミサイル、戦闘機、大地を揺らしながら走る戦車、軍用トラック、発電機、兵器は大量の炭素化合物を吐き出している。また爆撃によるインフラや車両の破壊、火災(森林火災も含む)で放出される温室効果ガスも半端ではない。軍隊の維持や大量移住にもエネルギーが必要になる。まして破壊された鉄道、道路、橋などのインフラ整備、建造物、荒廃した農地・森林などの再建にどれほどのエネルギーを注がなければならないか。
 10月3日、ウクライナ政府はロシア侵攻の環境被害は360億ユーロと推計値を明らかにした。今回の戦争がもたらした大気汚染による被害額は約250億ユーロに達しており、土壌被害に対処するにはさらに114億ユーロが必要になるという。過去7カ月間の戦争により3100万トンのCO2が排出された。これはニュージーランドの年間排出量とほぼ同水準となる。さらに、破壊されたインフラや建物を再建するため、今後7900万トンのCO2が排出される可能性があるという。
 UNEP(国連環境計画)のインガー・アンダーセン事務局長は10月6日来日し、NHKの単独インタビューに応じ、ロシア軍の激しい爆撃などによりウクライナ国内で水質や土壌など、深刻な環境汚染が広がっているとし、重大な懸念を示した。「戦争による環境汚染の影響を除去するためには、何十年もかかることが過去の戦争からも明らかだ。ウクライナでの戦闘を一日も早く終結させなければならない」と述べた。戦争は気候危機の元凶である。「ウクライナ戦争」を早く終結させることが、今私たちが直面している地球温暖化防止の喫緊の課題である。戦争反対、気候危機を叫ぶ世界中の人々と連帯しよう。
(環境対策委員 山本 昭郎)

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