主張 赤字ローカル線廃止の意味するもの  PDF

 コロナ禍中とはいえ、今夏は多少の移動も許容されるのではと、旅行や里帰り等で各種交通機関が一定の混雑を見せていた。そうした中、国交省の有識者会議から出された赤字ローカル線に対する提言により、その廃止に向けた流れが加速するのではないかといわれている。
 鉄道ファンの一人でもある筆者としては寂しい限りであるが、ここで問われているのは地方における公共交通機関のあり方だけではない。あらゆる需要が急速に縮小していく、人口激減地域における生活インフラ全体の持続可能性という点である―と指摘する向きがある。
 過疎地域の範疇に入るレベルでなくとも、人口減少地域は全国にあまねく存在している。その減少スピードは生活インフラが低いレベルであるほど速く進んでいることも周知の通りである。
 赤字ローカル線はそれら生活インフラの象徴である。日用品を扱う商店等が含まれるのはもちろん、当然ながら医療介護系の保健領域を忘れてはならない。
 生命と健康のサポートは、毎日の生活の基盤である。全国どの地域においても安心して医療を等しく享受できることの重要性は今さら議論するべきことでもなかろう。
 しかるに数年前、近畿のある県において診療報酬に地域格差の導入を本格的に画策していた事実も記憶に新しいところであり、全くの他人事とはいえない現状なのである。
 繰り返しになるが、まさしく生活の拠りどころである医療において、人為的に地域格差を作るべきではないと考える。
 ちなみにJRの運賃は、幹線と地方交通線の二本立てになっているとはいえ、「超」赤字路線といえども運賃体系は変わらない。安心して遠くの地まで足を延ばし、旅情を満喫できるのである。
 これまで日本は全国津々浦々に住めば都であった。これからもそうあってほしいと願うのは贅沢であろうか。

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