シリーズ環境を考える 154  PDF

本州でのエキノコックスの拡大

 北海道の大雪山系を縦走した時、絶対に沢の水は飲むなと言われ大量の水を担いで縦走したことがある。これはエキノコックス属条虫の卵が水などに含まれている恐れがあるためだ。エキノコックスはキツネや犬のフンに含まれる虫卵を、水などを介して口から摂取することで人に感染する。しかし、エキノコックスはヒトの体内では成虫まで成長できないため、人から人へ感染することはなく、感染してもすぐに症状は出ず、10年程度の潜伏期間がある。
 感染したエキノコックスは肝臓に寄生し、嚢胞(のうほう)という袋を肝臓に作り、この嚢胞が肝臓を圧迫することで、腹痛、黄疸、肝機能障害を引き起こす。末期になると脳に転移することもあり、その場合は意識障害やけいれんを引き起こす。エキノコックスを放置した場合、90%以上の方が亡くなるという恐ろしい寄生虫だ。
 キツネや犬には有効な駆虫薬(寄生虫を除去する薬)があるのだが、人に有効な薬は存在しない。唯一の治療法は嚢胞を手術で取り除くことだが、病気が進行していると取り切れない可能性も出てくるというのだ。
 今まで北海道にしかいなかったそのエキノコックスが愛知県で定着したという。北海道では毎年20例前後の感染が報告されているが、18年から21年3月までに知多半島で9例が報告されている。愛知県でアウトドアやキャンプをする時は要注意であり、今後は本州で広がる恐れもあるようだ。ただその対策は①野生動物に触らない②生水を飲まない③山菜やキノコはよく洗う―の三つでかなり防げるそうなので、キャンプや登山に出掛ける際は、今後気を付けなければならない。
(京都府歯科保険医協会 副理事長・平田 高士)

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