医師が選んだ医事紛争事例 159  PDF

子宮内容除去時に子宮穿孔と小腸損傷
(30歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、過去2回経膣自然分娩を既往した経産婦であって、今回も経膣自然分娩で男児(第3子)を出産し5日後に退院した。産後1カ月検診で本件医療機関を受診したところ、担当医が経膣超音波検査で子宮内に貯留を認めた。そこで、担当医はゾンデで子宮内腔方向を確認した上で、胎盤鉗子で子宮内容物を除去した。卵膜様の内容物が牽引された際に患者は強い疼痛を訴えたので、癒着胎盤・卵膜残存の可能性を疑い、組織を一部採取して子宮内容除去処置を中止した。
 その後、担当医は子宮前壁の損傷、腸管損傷も疑い緊急MRI検査を行ったところ、子宮前壁の穿孔、CT検査ではfree air、腹水貯留を確認。外科において緊急開腹して子宮穿孔部位部分削除修復術、小腸部分削除縫合術、腹腔ドレナージが実施された。手術時間は約2時間であった。患者は後遺障害もなく約2週間後に退院した。
 その後、患者側は慰謝料を請求。患者が今回の事故で育児ができず、有職である患者の母親が新生児の面倒を見たことによる休業補償も求めてきた。
 医療機関側は、もう少し慎重に子宮内容物の除去をしていれば、今回の事故は起こらなかったはずとして、手技上の過誤を認めて謝罪した。なお、事故後は患者に医療費を請求していなかったとのことであった。
 紛争発生から解決まで約4年4カ月間を要した。
〈問題点〉
 患者の身体的要因として、子宮が後屈していたことは事実としてあるが、子宮穿孔や小腸損傷を来した理由とは言えない。子宮内部に内容物を残存させることは、必ずしも過誤とは言えない。しかし、医療機関側の主張通り、除去術をより慎重に行っていれば、今回の事故は避けられたと判断され、医療過誤と認められた。
 ただし、示談交渉において、医療機関側が患者の勢いに負けて徐々に賠償金額を上げざるを得なくなり、結果として医師賠償責任保険の保険金額だけでは足りなくなり、医療機関が自己負担した。
〈結果〉
 ほぼ、患者側の請求額通りの額を支払い示談した。

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