診察室よもやま話2 第8回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

濃厚接触者

 新型コロナウイルス感染症は留まることなく、オミクロン株感染者は急増している。当圏域でも2月中旬には1週間あたりの新規感染者数は約800人、自宅療養者数は約1200人と高止まりで、高齢者施設・障害者施設でのクラスター多発により、病床はほぼ満床となっている。
 毎日のようにかかりつけ患者さんから発熱があると電話がある。PCR検査や抗原検査をして、その陽性者を新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(ハーシス)へ直接入力して発生届を提出する。そして自宅療養者フォローアップの電話診療をすることが日課になってしまった。
 自院で実施したPCR検査で陽性となって自宅療養しているOさんに午前の診察中に経過観察の電話をした。
 「どうですか調子は。熱は下がっていますか」
 「大丈夫です。熱は36・4℃です。まだ時々、咳は出ますが」
 「今日で自宅療養終了ですね。良かったですね」
 「良くはないのです。私は大丈夫なのですが、父親が今日から熱を出しているのです」
 どうも、同居家族で濃厚接触者となった父の様子がおかしいらしい。
 「お父さんは濃厚接触者で7日間の待機期間が終わりではないのですか」
 「私は隔離部屋から出なかったのですが、弟が2日後に熱を出してPCR検査陽性でした。母も喉が痛いと言っていたので、それからうつったのかも分かりません」
 濃厚接触者該当同居家族の待機期間は、検査陽性者の発症日(検査陽性者が無症状の場合は検体採取日)または検査陽性者の発症等により住居内で感染対策を講じた日のいずれか遅い方を0日目として7日間とされている。感染者の発症日から7日を超えて発症する二次感染者は極めてまれなためとされている(国立感染症研究所)。しかし、7日を超えて発症したと思う事例も経験している。
 「それで、お父さんの調子はどうなのですか」
 「ゴンゴンと咳をして苦しそうです。」
 「それは、大変ですね」
 「実は父は糖尿病と高血圧症でT病院に通院しているのですが、もうすぐ透析になると言われていたのです」
 「とりあえず、コロナの検査をしますので来られますか」
 いつものように診療所の裏庭で検査をしようと個人用防護具に着替えていると、Oさんから電話があった。
 「父に話をしたのですが、とても息苦しくて伺えないと言うのです。私の借りていたパルスオキシメータで88%しかないのです」
 状況から考えて、コロナ肺炎に違いない。まして糖尿病性腎症も腎不全期のようである。保健所に電話して入院のアレンジをお願いした。
 翌日、電話でお父さんがどのようになったかを尋ねた。
 「お父さんは入院できたのですか」
 「あれから保健所から電話で救急隊を呼ぶように連絡があったので、すぐに119番をしました。それでもコロナの検査を引き受けてもらう病院が見つからず、保健所に頼んでもらってU病院に行ったのです」
 「コロナの検査なら私の診療所でもできたのに」
 「そうですよね。その時は気付きませんでした。そこで抗原検査が陽性だったのです。入院先を探すのに、また時間が掛かったようです。夕方6時を回ってK病院から入院していると電話がありました」
 「とりあえず入院できてよかったですね」
 「でも、肺炎になっていて状態は悪いようです。とりあえずK病院でできることはするが、場合によっては転院してもらうと言われました」
 当圏域での入院はできず他圏域の病院に入院となった。感染者数の急増で病床が満床状態となり入院医療が逼迫していることを実感した。Oさんは自宅療養解除になったものの自家用車がなくK病院へ行くことも難しいようである。入院できずに亡くなる方も報じられている時期だけに、入院治療を受けられるだけでも有難いと思わなければならないのだろうか。

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