医師が選んだ医事紛争事例 157  PDF

ターニケットを外し忘れて右中指循環障害

(30歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、ソフトボール中にボールが右手に当たって指を捻挫し、約1週間後に本件医療機関を受診して、右中指骨性槌指と診断された。石黒法によるピンニング手術が実施され、無事終了した。
 しかし、ゴム手袋の指1本分を流用して中指の近位部の指根部にターニケット(止血帯)状にして指輪のように装着したのであるが、医師は術後に取り外しを失念したことを翌日発見した。患者は手術翌日の検創に受診したが、その時まで装着し続けていた。その結果、疼痛、水泡、皮膚剥離等が発症した。
 患者側は約8カ月後に、ターニケットを術後ただちに外すべきであったが、それを怠ったために、疼痛、水泡、皮膚剥離等が発症し、DIP関節可動域(ROM)の制限を残したとして賠償金の額を独自に計算して請求してきた。
 医療機関側としては、ターニケットを術後に外し忘れたことは全面的な過誤と認めた。なお、右中指のDIP関節のROMは、自動で伸展マイナス20度、屈曲60度、他動で伸展マイナス10度、屈曲60度であった。また、神経症状は治まった。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 ターニケットを外し忘れたことは、単純な過誤と断定せざるを得ない。しかし、神経症状の残存などはなく、DIP関節のROM制限は、整復後の固定継続中に近位骨片と対接する部分の遠位骨片に近位骨片が陥入して、遠位骨片の背側骨皮質が後方にめくれ上がり同腹側部が近位部方向へと中節骨遠位関節面に接近したことによるものであるとして、術中術後の血行不全により関節拘縮を来したとは特定できない。また、後遺障害についても認められない。
〈結果〉
 ターニケットを外し忘れたことを過誤と認め、賠償金を支払い示談した。

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