医師が選んだ医事紛争事例 161  PDF

大腸ポリープ切除時に大腸穿孔

(70歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は大腸ポリープ(S状結腸の径8㎜sp:ser-rated polyp、上行結腸の径10㎜lsp:Large serrated polyp)に対し、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)を受けた。手術は約30分で終了した。いずれの組織も一括切除され腸管の筋層切除を来していないことを直視下で確認、組織標本でもそうであった。創部はクリップで縫縮し合併症は認められなかった。
 ところが翌日、患者に左下腹部痛と嘔吐が認められた。レントゲン検査を行ったが、フリーエアは認められなかった。その後も腹膜刺激症状が持続したためCT検査を実施したところ、左下腹部腸間膜内に air leakが認められ大腸穿孔と診断された。同日緊急開腹手術を実施。術中所見で穿孔部位は RSjunction
に確認できたが、漿膜が5㎝裂けておりその中心が穿孔していた。治療は腸切除術をせずに裂創を縫縮して終了した。
 患者は手術から約1年3カ月後に退院した。入院中、導入麻酔時に喘息の重責発作が起こり、喘息に起因する腸壁ヘルニアが併発した。また、カテーテルからの感染症、偽膜性腸炎の合併症を併発した。患者は退院後に腸壁ヘルニアが悪化したため、退院から約20日後に再入院となった等思わしくない経過を示した。
 患者側は、大腸穿孔したことについて医療過誤を疑い訴訟を申し立てた。
 医療機関側は、EMR後48時間以内に発生している穿孔であることから、因果関係があり、恐らく内視鏡挿入時の穿孔であると推測した。また、穿孔については、特に手術が難しい患者ではなかったが、腸の蠕動運動が激しかったため、若干、内視鏡を強く押しすぎたことが原因と判断。施術時の危険性併発を含めて説明しインフォームド・コンセントを得ていた等をはじめ、説明義務違反による賠償責任もないはずと考えた。
 紛争発生から解決まで約7年3カ月間要した。
〈問題点〉
 担当医は、内視鏡を若干強く押し進めたことを認めていたが、原因として患者の身体的要因の関与があるとのことで手技による過誤とは認められなかった。
〈結果〉
 第1審で医療機関側が勝訴した。それを不服として患者側が控訴したが、控訴棄却となり、医療機関側の勝訴が確定した。通常、単なる検査でなくポリペク時であっても、大腸穿孔が生じてしまうと、裁判では不利になると考えられていたが、今回の判決は医療機関側にとっては障害防止の困難性や不可抗力性が認められる画期的なものであったといえる。

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