私のすすめるBOOK 垣田 さち子(西陣)歴史と倫理に向き合う意味 731部隊の事実に問う  PDF

 やっと出た。「ついに」「ようやく」「とうとう」など、いくつもの副詞が浮かんでくる。ずっしり重たい立派な本を手に取って大いに喜んだ。
 ちょうどその時、夕方のテレビニュースでいきなり「日本の731」という文言が聞こえてきた。ロシアからの映像としては珍しく女性がしゃべっていた。プーチン政権の役員なのか、極めて自信たっぷりの物言いだった。
 今年の2月24日に、ロシアが一方的にウクライナに侵攻しすでに2カ月が経過した。無抵抗な一般市民の住まい、学校、病院等への情け容赦ない集中爆撃が、リアルタイムに世界中に伝えられ、それを見た誰もが驚怖を共有した。二度にわたる悲惨な世界大戦を反省し、新しい世界のあり方を築くという人類史上初の試みを模索しつつ21世紀を迎えたはずなのだが。
 確かに画期的な変化もあった。その一つが“ヨーロッパ連合”の成立だ。ほんとに“ベルリンの壁”が壊され、去年引退したメルケル・前ドイツ首相が東ドイツの出身だったのも凄い。難民問題に人道主義の原則を示し敬服したが、現実は極右政党の台頭が見られるように、活躍の裏には陰の部分がひろがっている。アメリカも同様で、トランプ前大統領の4年間の行状は、とても民主主義のお手本の国とは言えない。
 ロシアがウクライナ侵略でやっている数々の蛮行を非難し止めさせようと世界中が怒っているのだが、事態は少しもよくならない。無力感に打ちのめされている時に、生物・化学・核兵器の使用を心配する世界の声に対して「日本の731」を持ち出して開き直るなんて複雑な心境だ。
 あの大戦についての反省は充分とは言えない。私たちは“731部隊”に関して本当のことをどれくらい知っているだろうか。私が京都保険医協会、保団連での仕事ではできる限りこの課題に積極的に取り組んだ。そして21世紀になっても新しい事実が表れてくることに感動した。
 今回このようなしっかりした形にまとめられた吉中氏をはじめ、執筆者らに敬意を表します。

『七三一部隊と大学』
吉中 丈志 編
京都大学学術出版会
3,960円(税込)

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