医師が選んだ医事紛争事例160  PDF

大腸がん・肝転移の見落とし

(80歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は約8年前から高血圧・不整脈で本件医療機関に通院していた。また、患者はヘビースモーカーでもあったので、不定期に腫瘍マーカーCEAと胸部レントゲン検査を実施していた。なお、患者が死亡する約4年前の時点でCEAは5.6(基礎値:5.0以下)とほぼ正常範囲内で、その時の胸部レントゲン検査でも異常像は認められなかった。しかし、その約2年後にはCEAは10.1となった。胸部レントゲン検査では異常像はなかった。その後もレントゲン検査では異常像は認められなかった。しかし、CEAはその約7カ月後に13.4となり、その約4カ月後には29.9となった。さらに約2カ月して患者は来院したが、その際には大腸がんと診断され肝転移を併発していた(ステージ4)。なお、がんが判明するまでに患者は通院を続けていたが、その間に消化器疾患の精査は実施していなかった。その約1年後にがん転移で死亡した。
 患者側は調停を申し立てた。主張は以下の通り。
 ①CEAが13.4の時点で、消化器疾患の精査を実施しなかったのは担当医の怠慢である②医療機関としての見解を示して報告してもらいたい③担当医師の謝罪に誠意が認められない。
 医療機関側の見解は以下の通り。
 ①CEAが10.1の時点で大腸がんを発見していたとしても、進行がんのために大腸がん自体のサイズが違うだけで手術・治療に変更は生じなかった。ただし、肝転移についてはその時点で転移していたか否か不明である②CEAが高値であるにもかかわらず、胸部レントゲンのみを実施していた点については怠慢であった③上記の②について医師から謝罪をしたが、医療過誤の有無および賠償責任については判断が難しかった④再発防止に取り組む。
 紛争発生から解決まで約3年2カ月間要した。
〈問題点〉
 医療機関側としては、当初は医療過誤の有無は不明としていた。しかし、医師は遅くともCEAが29.9、その時点で消化器系の精査をすべきだったとして過誤を認めた。さらに、CEAが徐々に高値になっていく事実を見落としていたことも判明した。以上の事実確認から、医療過誤は認められると考えられた。
〈結果〉
 医療機関側は過誤を認めたが、調停においては解決金の額に折り合いがつかなかった。しかし、患者側はその後に考え直してほぼ医療機関側が提示した額での示談に応じた。

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