鈍考急考 28 膨張する警察権力 原 昌平(ジャーナリスト)  PDF

 最も身近な権力機構は、警察だろう。直接に実力行使できる組織で、武器も持つ。
 その活動が政治的に偏っているのではないか。最近、注目すべき判決が相次いだ。
 岐阜県警は、風力発電施設の建設に反対する住民の情報を収集し、中部電力の子会社に伝えていた。岐阜地裁は2月21日、思想信条や私生活に関する情報を積極的・継続的に提供したのは悪質だとして、市民4人に計220万円を賠償するよう県に命じた。
 北海道警は2019年の参院選で街頭演説する安倍首相にヤジを飛ばした市民2人を排除し、無理やり移動させたり、長時間つきまとったりした。札幌地裁は3月25日、表現の自由や移動の自由を侵害したとして計88万円の賠償を道に命じた。
 どちらも警備公安の分野である。刑事、生活安全、交通などの部門と異なり、警備公安の予算は国庫負担。実質的に警察庁が直接指揮する。刑事罰のための捜査より、情報収集、未然防止を重視する。
 警察の中ではエリート部門だが、体制や活動は秘密のベールの中。極左、右翼、外国関係の動向把握とともに、日本共産党をはじめとする左翼を敵視し、労働運動、市民運動の情報も集める。
 関係者の行動監視、スパイ工作を行い、かつては共産党幹部宅の電話盗聴も発覚した。政治的意図を感じさせる捜索、逮捕も少なくない。
 交番勤務やパトロールを行う地域課の警官も、公安情報収集の一端を担っている。
 戦前戦中の内務省・警察は強い権限を持ち、とりわけ特高警察は政治弾圧や拷問を重ねた。このため戦後、警察は自治体ごとに改編された。
 とはいえ、全国の警察の重要ポストは、警察庁のキャリア官僚が握っている。
 警察法改正で4月から警察庁にサイバー警察局が新設された。これまで皇宮警察だけだった国家警察の直接業務部門。ネット犯罪対策は必要だが、はたして、その範囲の捜査に限定されるのか。
 経済安全保障推進法案(罰則付き)が国会を通れば、企業活動や研究者にも監視が強まる。おそらく警備公安部門が扱う分野になり、天下りも増えるのではないか。
 第2次安倍政権以降、警察官僚が官房副長官を務め、ほかにも政府中枢に複数入っている。岸田政権でも同様だ。
 地方では公務員の定数削減が進められてきた。犯罪は激減している。その一方で警察官は増員されてきた。
 筆者は警察全体を否定・敵視するつもりはない。事件の捜査を依頼することもある。正義感の強い熱心な刑事、良心的な警察官も知っている。
 だが、階級社会で風通しが悪く、労働組合は禁止。警官個人の不祥事はともかく、職務執行や組織の活動に関しては、めったに非を認めない。
 警察を監督する都道府県の公安委員会は、お飾りに近い。情報公開、個人情報開示の制度も、捜査の秘密、治安にかかわるとされると情報が出ない。地方議会や国会の質疑も同様に限界がある。
 警察の活動を検証し、コントロールする仕組みが乏しいまま、権限と組織が膨張していくのは、怖くないか。

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