政策解説 医療提供体制改革のクライマックス 外来機能報告制度が施行  PDF

 2021年5月公布の「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」に基づく「外来機能報告制度」が22年4月1日に施行された。
 同制度の施行は、小泉政権以降推進されてきた、国が地域における病床数・医師数コントロール権を握り、都道府県を実施主体に国の構想する医療提供体制を実現する医療制度構造改革がクライマックスを迎えることを意味する。

4月から始まる 「外来機能報告制度」

 外来機能報告制度は地域医療構想における「病床機能報告制度」の外来版といえる。
 同制度の概要を以下、国の示した「外来機能報告等に関するガイドライン」(2022年3月16日、以下GLと表記ⅰ)を参照し、解説する。
 施行は22年4月だが、対象医療機関の実際の報告は10月が予定されている。報告義務を課される医療機関(=対象医療機関)は病院並びに有床診療所であり、無床診療所は「任意」である。
 対象医療機関に求められる報告項目は次のとおり。
 ①「医療資源を重点的に活用する外来の実施状況」
 入院の前後の外来(診療報酬上のK:手術、J:処置、L:麻酔コード等を算定する医療)や、高額等の医療機器・設備を必要とする外来(診療報酬上、外来科学療法加算、外来放射線治療加算等を加算する医療)、そして特定の領域に特化し、紹介患者に対応する外来の患者延人数、実施件数とその詳細。
 ②「『医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関』(=紹介受診重点医療機関※後述)となる意向の有無」
 ③「地域の外来機能の明確化・連携の推進のために必要なその他の事項」
 ⅰ)その他の外来・在宅医療・地域連携の実施状況(生活習慣病管理料等の算定状況)
 ⅱ)救急医療の実施状況
 ⅲ)紹介・逆紹介の状況(紹介率・逆紹介率)
 ⅳ)外来における人材の配置状況
 ⅴ)高額等の医療機器・設備の保有状況
 ただし、NDBデータから抽出できるものはあらかじめ提供される。
 地域には報告を踏まえた「協議の場」が設定される(「地域医療構想調整会議」の活用も可能)。この協議の場で議題となるのが「紹介受診重点医療機関の取りまとめに向けた協議」と「外来機能の明確化・連携に向けた協議」である。
 「紹介受診重点医療機関」(以下、重点医療機関)は4月からの新点数にも登場している。従来、特定機能病院および一般病床200床以上の地域医療支援病院に課されていた「紹介状なしで受診した患者からの定額負担金徴収義務」を拡大し、新たに加えられた医療機関であるⅱ。協議の場はこれを決定する。重点医療機関となる「基準」は、外来機能報告において、外来件数のうち「医療資源を重点的に活用する外来」の割合が、初診基準:「40%以上」、再診基準:「25%以上」とされる。同時に「参考とする紹介率・逆紹介率」が「紹介率50%以上」かつ「逆紹介率40%以上」とされる。これらの基準を満たし、自ら重点医療機関となる意向を示した医療機関は「特別な事情がない限り」、紹介重点医療機関となることが想定される。
 一方の「外来機能の明確化・連携に向けた協議」に用いられるデータは、診療報酬上の生活習慣病管理料、特定疾患療養管理料、小児かかりつけ診療料、地域包括診療料、地域包括診療加算等の算定状況である。これら点数のほとんどはいわゆる「かかりつけ医機能」を評価する点数である。GLは「(重点医療機関の)紹介元・逆紹介先となる『かかりつけ医機能を担う医療機関』」等について「データに基づく議論を行う必要」があると述べている。

外来機能の2分化

 以上を踏まえると、本制度を通じて国が構想する外来医療提供体制においては、地域の外来医療を担う医療機関が「紹介受診重点医療機関」と「かかりつけ医機能を担う医療機関」の「2種類」に大別されるものと考えられる(図)。
 今回報告義務の課された病院・有床診療所であれば、特定機能病院、地域支援病院に加え、新たに紹介受診重点医療機関、かかりつけ医機能を担う病院に分化されることになる(表)。しかし、そのいずれにもあたらない病院も確実に存在するはずである。そうした病院は国の将来構想へどのように位置づけられるのか、GLには特に書かれていない。
 今回のGLからは「書かれていないこと」を読み取ることが重要である。それは今回、報告が任意とされた無床診療所の「将来」についても同様である。本制度が従来の医療提供体制改革の延長線上にあることを踏まえた上で、今回のGLから国が本当に考えていることは何かを以下、3つの着目点から考察する。
 第一に、GLには「診療科」について何も書かれていない。だが無床診療所であっても診療科によっては「医療資源を重点的に活用する外来」は存在するのではないか。
 そこで第二に、「無床診療所」についての記述に注目したい。GLは22年度について「無床診療所のうち、医療資源を重点的に活用する外来を行っている蓋然性の高い無床診療所を抽出し、あらかじめ当該報告を行う意向を確認する」としている。ということは、無床診療所でも「該当する蓋然性の高い医療機関」ならば「重点医療機関」の対象になり得ると国は考えていることになる。
 裏返せば第三に、「蓋然性」のない無床診療所はいずれの診療科を標榜していても、国の「二分法」に従えば「重点医療機関」ではなく「かかりつけ医機能を担う医療機関」とされることになる。ここでも問題になるのはそのいずれにもあたらない無床診療所がどうなるかである。
 以上の考察から浮上するのは、報告制度を用いた外来機能分化が推進された将来において「重点医療機関」になれない医療機関は「かかりつけ医機能」を求められ、そのいずれにもなれない医療機関が「淘汰」される危険性である。

定額負担拡大から「かかりつけ医制度」へ?

 さて「重点医療機関」への「定額負担」拡大は、「かかりつけ医」の紹介を経ない受診を「アメニティ」と見做し、重点医療機関等への受診のためには必ず決まった「かかりつけ医機能を担う医療機関」を受診せねばならない「制度」、すなわち「かかりつけ医」制度を志向するものである。
 したがって近い将来、国が16年に一旦見送った経緯のある「かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担」を提案してくる可能性が高いと考えられる。その仕組みを成立させるには、すべての患者が自分のかかりつけ医を選び、「契約」や「登録」を行う必要がある。それは国の悲願であるかつての「家庭医構想」の実現を意味する。皆保険体制の原則であるフリーアクセスと自由開業が否定され、「かかりつけ医」に対する診療報酬の「包括化」が図られるならば「出来高払い」に基づく「療養の給付」も終焉を迎える。外来機能報告制度によって医療提供体制改革が「クライマックス」を迎えると指摘する所以である。

真の「かかりつけ医機能」発揮のための対抗構想を

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって「かかりつけ医」の必要性を訴える言説が活発となっている。これを医療費抑制に利用させず、地域の医療者が「かかりつけ医機能」も含めた専門性を一層発揮できるよう、現場からの対抗構想と運動が求められる。

ⅰ ガイドラインの全文は厚生労働省ホームページから閲覧可能。https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000
914298.pdf なお、協会が4月25日に発行予定の「医療政策関連情報Vol.26」にも全文掲載予定である。
ⅱ 金額についても、現行の初診5,000円から7,000円以上に引き上げ(再診の場合は2,500円から3,000円以上)、引き上げ分は初再診料から「控除」(保険給付外化)。

(表)予想される構想(協会作成)

病院の機能分化構想
特定機能病院
地域医療支援病院
紹介受診重点医療機関
かかりつけ医機能の病院
上記いずれでもない病院

診療所の機能分化構想
かかりつけ医機能を担う
有床診療所のうち、重点医療機関になり得る医療機関
無床診療所のうち、重点医療機関になり得る医療機関
無床診療所であっても重点医療機関になり得る「蓋然性」の高い診療所
上記いずれでもない診療所

(図)
令和3年2月8日 医療部会資料

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