そこのところが知りたかった!医療安全Q&A vol 9「賠償請求できる期間、カルテ保存期間」弁護士が対応方法をお答えします  PDF

あやめ法律事務所
松尾 美幸 弁護士

 Q、診療所を閉院しようと考えています。閉院前に患者と診察について少し見解の相違がありましたが、その後患者からは何も言ってきません。閉院した後でも、患者は過去の診療行為について訴えることができますか。
 A、(1)訴訟できるか
 患者は、医師との診療契約に不履行があれば損害賠償請求権を取得します。
 この損害賠償請求権の消滅時効は、権利を行使しうる時から20年、行使しうることを知った時から5年(民法166条第1項1号、167条)とされています。
 ただし、改正民法が施行された21年9月1日より前に発生した医療事故に関しては、消滅時効期間は「権利を行使しうる時から10年」となります。
 なお、この「権利を行使しうる時」については、事案により異なると思われます。民法改正前の裁判例ではガーゼ遺残の事案で手術から25年経過した後の損害賠償を認めたものがあります。必ずしも医療事故発生の時ではないことに注意して下さい。
 (2)閉院後のカルテの保存期間
 保険医療機関では、患者の診療録の保存期間は、完結の時から5年間とされています(療担規則9条)。
 閉院の区別なく、5年間は保存して下さい。
 閉院の場合は、更新されることはないので、データに取り込む方法でも構いません。ただ、パスワードの失念等、閲覧・謄写ができなくなると、いくら保存していると言っても認められなくなりますので、データでの保存の場合はかようなトラブルの内容に注意して下さい。また医師の死亡に伴う閉院の場合、相続人が保存しなければなりません。
 (3)トラブルが予想される患者のカルテ
 法律上、トラブルの有無にかかわらず、保存期間の経過後にカルテを破棄することは可能です。
 ただ、カルテが有力な証拠になると思われる場合には、消滅時効が経過するまで保存したほうが良いと思われます。
 ご心配の場合には、念のため、保険医協会にご相談されてはいかがでしょうか。

ページの先頭へ