診察室よもやま話2 第7回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

電算コード

 最近の医療事務はやたらと難しくなっているようだ。
 腹痛で来られたTさんの腹部超音波検査が済んで、ホッとしていると事務員が問い合わせにきた。
 「先生、超音波の部位はどこですか」
 「肝臓、膵臓、腎臓も大動脈も全部見たけれど」
 「そんなことを、また言って。それは分かっていますけど、それではこちらが困ります。どこなのですか」
 「うーん、それなら消化器にしといて」
 「これで何回目ですか。次からは、ちゃんと領域をカルテに書いておいて下さいよ」
 腹部超音波をする時には、緊急でない限りは得たい情報だけでなく、見落としがないように得られる情報すべてを収集するものである。例え胆石を疑ったとしても、肝臓も膵臓も、腎臓も、大血管やその分枝、膀胱、前立腺や子宮も見ておくのが当たり前と思っていた。もちろん、腹水や胸水がないかは当然見ておくものである。たまたま膀胱がんや卵巣のう腫を見つけることも多い。
 ところが、その常識は間違っていると言われているような規則になった。超音波検査を算定する医療機関は、検査を行った領域を記載しなければならないとのお達しである。複数領域の検査を行った場合は、その全てを記載しなければならないとある。私の場合には男性は女性生殖器領域を除くすべて、女性は全領域を選択することにするべきなのであろうか。
 どうしてこのようなレセプト記載要領に変更になったのか、不思議である。専門科では専門領域しか検査してなくても、他領域の見落としの責任を問いませんとの暗黙の了解になったためだろうか。消化器領域と記載すれば、腎臓や血管、腹腔内・胸腔内の貯留物を見ることは規則違反になるのだと困ってしまう。せめて主たる関心領域を選択するくらいの規則なら、受け入れることもできるのだが。
 閉塞性睡眠時無呼吸に用いるCPAP(持続陽圧呼吸療法)治療でも、やたらとレセプトへの記載が多くなっているようである。
 「先生、今日、病院から紹介されてきたCPAPの患者さんですけど、初回の指導管理年月日や睡眠ポリグラフィー上の所見や実施年月日を教えて下さい」
 事務員がレセコンの入力に困っている。
 「えぇ、そんなもの病院の紹介状に書いてなかったから分からんわ」
 「そのようなことだと困るのです。私たちはレセコンに入力しなければならないのです」
 「そう、そうだったな。診察が終わってから病院に問い合わせるので、今は勘弁して」
 病院の医師にとっては、レセプト記載のことなどはどうでもよいことである。そこは悲しいかな「町医者」にとっては生命線である。
 「あの、そちらの病院から紹介された患者さんなのですが、睡眠ポリグラフィーの所見など、病院のレセプトに記載されている内容を教えてもらえませんか」
 病院の事務も心得たものである。
 「そうですね。よく開業医さんから問い合わせがあるのです。あとで医事課からレセプトに必要な内容を送ってもらうことにします」
 どうも、病院内でも医事課がレセコンに入力する時にも担当医に問い合わせなければならない面倒な作業が増えたようである。
 診療報酬改定でレセプトのコメントに対して電算コード入力が必要になって、ますます医療事務は煩雑になっている。レセプトのコンピューターチェックの地ならしのための導入のようである。入力日から自動的に読み取れる日付があるにもかかわらず、再度実施日をコメントコードでも入力する項目が多い。
 せっかくレセプトを電子データで送っているのだから、わざわざ二重に入力するのは無駄である。電子化されると手間が省けるはずなのに、それとは逆行して手間を増やす措置をとる理由が分からない。もう少し集中して医療に専念できる体制にしてほしいものである。
 それが、道具としてのコンピューターの使い方ではないだろうか。

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