医師が選んだ医事紛争事例154  PDF

子宮内で胎児が死亡

(20歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は初産婦で、破水したため本件医療機関に入院した。患者は緊張していたため不眠を訴えていたが、胎児に不良な症状・所見はなく問題は認められなかった。医師はソセゴン?とマイスリー?を投与した。入院から4日後の深夜に開大5~6㎝、児頭下降度がマイナス1~プラスマイナス0、回旋前方前頭位のまま経過、羊水混濁を認めた。同日の午前中に開大9~9・5㎝、児頭下降度がプラスマイナス0と進行があり、児頭回旋を認めたが、完全には正常位に固定しなかった。子宮収縮が5分ごと、児心音ベースが170~180台で、念のため酸素投与を開始して、フルモニターでの監視とした。
 翌日の午前中には回旋前方前頭位のまま自動下降が認められ、患者の夫と母親の立ち合いで主治医が誘導を開始した。羊水は混濁し便汁様で児頭下降度はプラス2のレベルにまで達したが、回旋には変化なく子宮収縮は2~3分ごととなり強弱が認められた。児頭が回旋し始め、その約1時間後にBT39℃、悪寒を認め、児心音ベースが170~180台で、目立った進行がなかったので一旦誘導を中止とした。
 主治医は1時間経過観察して再度誘導をかけ、進行がなければ帝王切開を実施することを患者側に説明した。その後、再度誘導をかけたが、約20分経過後に児心音が60台まで急に低下したため、約10分後に緊急帝王切開を決定し、小児科医師にコールした。しかし、その約20分後に胎児の心拍は停止し、その約10分後に児分娩。アプガルスコア0点で蘇生を試みるが反応がなかった。
 医療機関側としては、帝王切開の時期が遅延しており、仮に適時に実施していたら、胎児は救命できたとして過誤を認める意見も当初は一部あった。しかし、調査が進む中で、帝王切開施行の時期が明らかに遅延していたとの医学的判断は必ずしも取れないことから、弁護士とも協議して、医療過誤を否定した。なお、当初の患者側の態度から、医療費免除のみで問題は収束すると考えていた。
 患者側は、当初はそれほど怒りを露わにしていなかったが、時間の経過とともに葬祭費を請求したり、証拠保全を申し立てたりして、最終的に調停となった。
 紛争発生から解決まで約10カ月間要した。
〈問題点〉
 明らかな過誤を指摘するには至らないが、以下の点が争点あるいは医療機関の医療安全の体制の問題になると考えた。
 ①羊水混濁を認めた日から翌日にかけての帝王切開の判断のタイミング②帝王切開(の可能性)についての説明の遅れ(術当日まで患者側に説明をしなかった)③羊水培養をしていなかった④紛争発生当初に過誤を認めるような姿勢を示し、医療費の患者自己負担分を免除したこと⑤統一見解に至るのに必要以上に時間を要した結果、院内で混乱が生じて、患者側に医療過誤との誤解を与えたこと。
 なお、胎児死亡の原因は、解剖をしていないので断言できないが、体位が変わり徐脈が発生するとともに発熱・羊水混濁が挙げられているが、最終的には破水による子宮内感染によるものと推測された。また、患者側は新生児死亡と解釈している様子が疑われたが、事実は死産であり、死産であっても救命を試みるのは産婦人科医師として当然のことで、この点を患者側は誤解していると推測された。
〈結果〉
 調停において和解金を支払った。

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