2021年度確定申告に備えて 新型コロナに関する補助金等の処理・手続 税理士・公認会計士 外村弘樹  PDF

 新型コロナウイルス感染症の影響により、国民生活や事業経営に大きな被害が発生しています。その被害救済のために、国や地方公共団体は助成金や給付金などの補助金等を支給しています。ここでは主に医療機関が受取った補助金等について、会計処理と課税関係、事業税における取扱い、消費税の課税関係と返還について説明します。

会計処理と課税関係

 まず「医療機関・薬局等の感染拡大防止等支援事業(例:無床診療所補助限度額100万円)」や「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金(例:無床診療所補助限度額25万円)」等について説明します。
 医療法人が補助金等を受取った場合は、会計上は雑収入として計上し、税務上は益金に算入され、課税対象となります(法人税法第22条2項)。
 また、個人開業医が補助金等を受取った場合は、会計上は雑収入として計上し、税務上は収入すべき金額となり、課税対象となります(所得税法第36条1項)。
 補助金等を受取った場合、全てが課税対象外だと思われがちですので注意が必要です。
 ただし、以下の補助金等については課税対象外となります。

① 特別定額給付金
 国民一人当たり一律現金10万円を給付する制度です。

② 新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金
 医療機関で働く従事者に支給される慰労金です。この慰労金は医療機関が申請し、慰労金を受取った後、これを従事者に支給します。金額はその医療機関の患者の受入状況により異なります(1人5万円、10万円、20万円)。

③ 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金
 事業主の指示で休業させられ、その休業に対する賃金(休業手当)を受取っていない従業員に支給する支援金です。事業者を通じて申請することも可能です。

計上時期について
 補助金等の収益・収入計上時期については、補助金等の種類や目的によって注意が必要です。原則として補助金等を受取る権利が確定した日の属する(事業)年度に収益・収入を計上します。そして権利が確定した日とは、国や地方公共団体から交付決定通知書が届き、その通知書に記載されている日のことを指します。
 まず、経費補填のために交付される補助金等の場合、補助金等の受取りと対象経費の支出が同一期間に対応するように、補助金等をその経費が発生した日の属する年度の収益・収入として取扱うものとされています。交付決定通知書が到着していなくとも必要な手続をしていれば(例:申請書の提出)、 その経費が発生した日の属する年度の収益・収入として取扱います。
 次に、固定資産の取得または改良に充てるために交付される補助金等の場合、特別な処理をすることがあります。
 所得税の場合、一定条件のもと補助金等相当額を総収入に算入しない取扱い(所得税法第42条)があり、この補助金等相当額を固定資産の取得価額から控除した残額を減価償却して必要経費に算入します。
 法人税の場合にも同様に圧縮記帳という方法を採用できます。
 これらの方法は補助金等を受取った年度の課税所得を減少させる手法ですが、補助金等自体に課税されない訳でなく、取得した固定資産の耐用年数に渡って、後々の年度に課税を繰り延べる手段に過ぎません。

事業税 (地方税) における取扱い
 法人税や所得税など国税における取扱いについては、すでに各所で多くの解説がなされていると思います。しかし、事業税の所得金額の計算においては各地方公共団体により補助金等の取扱いが異なるため、ここでは個人開業医の場合に焦点をあてて解説をします。京都府における取扱いを中心として、大阪府や兵庫県での計算方法と比較してみます。
 なお、後述する取扱いは公式な書面の記載が無いため、当職にて各地方公共団体に口頭で確認したものとなりますので、本文中の記載にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えさせていただきます。
 まず、事業税での所得金額を計算するには、所得税で計算した所得金額を基礎として、課税分と非課税分に按分するための計算を行います。そして、確定申告書には業種番号と非課税所得金額を記載します。非課税所得の計算は次のように計算します。
① 京都府
 補助金等を総収入金額に含めて計算を行います。このため、京都府においては、後述する大阪府に比べて非課税所得金額は少なく計算され、その結果課税所得金額は多く計算されます。そして、令和3年度に生じた新型コロナウイルスワクチンの個別接種に係る収入において、ワクチン接種対策費負担金(委託金収入)と新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(補助金収入)は共に総収入金額に含めて計算します。
② 大阪府
 補助金等を総収入金額に含めずに計算を行います。このため、大阪府においては、前述の京都府に比べて非課税所得金額は多く計算され、その結果課税所得金額は少なく計算されます。また、ワクチン接種対策費負担金(委託金収入)は総収入金額に含めて計算を行い、新型コロナウイルス感染症包括支援交付金(補助金収入)は総収入金額に含めず計算を行います。
③ 兵庫県
 補助金等を総収入金額に含めて計算を行います。このため、京都府の計算結果と同じとなります。ワクチン接種対策費負担金(委託金収入)と新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(補助金収入)の取扱いについては、この原稿作成時点では兵庫県としての計算方法が定まっていないようです。
◇     ◇
 なお、医療法人の事業税の課税所得金額の計算についても、各地方公共団体により計算方法が異なります。
消費税の課税関係と返還
 新型コロナウイルス感染症に関する補助金等は大部分のものが不課税取引となります。
 ただし、新型コロナワクチン接種対策費負担金(例:単価2,070円)は支援金ではなく、委託料に該当するため課税取引になります。
 また、補助金等を受取ったものの、対象経費に係る消費税相当額を返還しなければならないケースがあります。京都府において「医療機関・薬局等の感染拡大防止等支援金事業」の申請時には、税込みの金額を記載するのか、または税抜きの金額を記載するのかが明示されていませんでした。
 この申請につき税込みで申請している場合には、課税事業者である場合(本則課税・簡易課税)と免税事業者である場合によって取扱いが異なります。
 まず、本則課税適用の課税事業者である場合、対象経費に係る消費税を返還しなければいけません。京都府に対し「消費税及び地方消費税に係る仕入税額控除税額報告書」を提出して、報告・返還の手続きが必要となります。
 次に、税抜きの金額で申請した本則課税適用の課税事業者、簡易課税適用の課税事業者、免税事業者の場合には、消費税の返還はありません。ただし、同報告書にて消費税の返還がない旨の報告が必要となります。
 さらに「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金(例:無床診療所補助上限額25万円)」の申請時にも、消費税の取扱いについて明示がありませんでした。そして現在多くの医療機関が申請手続きを進めている「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金(例:無床診療所補助上限額8万円)」の申請時には税込みの金額を記載しています。これらについても令和5年6月30日までに「消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額報告書(第2号様式)」を厚生労働省に提出しなければなりません。

非課税所得金額
事業所得金額(医業のみ)
社会保険診療報酬の収入金額
総収入金額(※雑収入を含む)

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