医師が選んだ医事紛争事例 152  PDF

往診中に左大腿骨転子部骨折を見落とし

(60歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者には、脳梗塞発症で左片麻痺となり、その後心房細動で本件医療機関からA医療機関に紹介され入院・加療となった経緯があった。患者はA医療機関を退院後、自宅療養となった。しかし、退院から数年後、患者が自宅で転倒し、本件医療機関に往診を依頼した。医師は、左大腿部に内出血斑と腫脹を認めたが、患者の左股関節部は他動的によく動かすことができ、その際clickや疼痛の訴えはなかった。患者がワーファリン?を服用・加療中であったため、医師はその副作用による内出血・腫脹と診断して湿布処置をした。
 その約2週間後に訪問した際、医師は患者の腫脹が続いていることもあり、ワーファリン?の処方・服用を中止した。その2週間後、自宅でのリハビリ中に、部位は不明であるが痛みを訴えている記録もあったため、翌月も月に1回の訪問診療を継続した。
 その後も、左大腿部腫脹は継続しており、介助されれば立位保持は可能だったが歩行不能であった。訪問診療を開始した約4カ月後に、A医療機関に紹介。レントゲン検査の結果、左大腿骨転子部骨折がみられ遷延治癒骨折の病態であると診断された。そこでB医療機関に転入院して、その2カ月後に手術をし、その翌月に退院・自宅療養となった。しかし、退院の翌月、患者は自宅での食事中に、誤嚥のため死亡した。
 患者家族は、当初は紛争にまでするつもりはなかった。しかし、この患者の妻は本件医療機関に対して別件で医療過誤を主張しており、医療機関が無責を主張したこともあって、本件に対してあらためてクレームを言ってきた模様である。今回の事故では、担当医が左大腿骨転子部骨折の見落としをしたと主張。また、より早期に骨折を発見していれば、予後がもっと良かったのではないかと疑っている様子が窺われた。
 本件医療機関は、初回往診時に骨折を鑑別するために、整形外科を紹介すべきであったが、患者がワーファリン?を内服していたこともあり内出血による腫脹との思い込みが生じたとした。
 紛争発生から解決まで約4年6カ月間要した。
〈問題点〉
 遅くとも痛みを訴えていると知った時点では整形外科医師に紹介すべきであったもので、その判断に一部医療過誤の可能性が認められた。
〈結果〉
 医療機関側は一部過誤を認めて、賠償金を提示したが、患者側は納得しなかった。しかし、それ以降患者からの訴えはなく、そのまま年月が経過したため立ち消え解決とみなされた。

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