診察室 よもやま話2 第2回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

逆紹介

 近年、各医療機関の特性や機能を明確化し、地域の医療機関との連携、機能分化を促すことが重要視されている。高度医療を提供する病院だけに患者が集中することを避けるためである。症状が軽い場合は「地域のかかりつけ医」を受診し、病状に応じて高次機能を持つ病院を紹介してもらう。病院で治療を終えて症状が落ち着いた後に「地域のかかりつけ医」に逆紹介してもらう。そして、その後の治療を継続してもらう、という病院と診療所の役割分担が制度化されようとしている。
 特定機能病院では、紹介率50%以上、逆紹介率40%以上という条件が定められている。地域医療支援病院では、①紹介率80%以上②紹介率65%以上かつ逆紹介率40%以上③紹介率50%以上かつ逆紹介率70%以上―のいずれかの条件を満たす必要がある。病院にとって、紹介率、逆紹介率を上げなければ経営に差し障るだけに必死にならざるを得ない。
 これまで、長年にわたり病院の外来に通院されていたTさんが、紹介状を持参して来院された。
 「これまで長い間、病院に掛かっていたのに、次からは、こちらで診てもらえと放り出されました」
 「病院と診療所で役割分担をするようになったのです。Tさんのように高血圧と糖尿病がうまく管理できている方は逆紹介と言ってかかりつけ医に回されるのです」
 「でも、これからも泌尿器科には通院するのですよ。これまでは、同じ日に病院で内科と泌尿器科に行っていたのに、今度からは二度手間です」
 Tさんの不満そうな態度に同情するのだが、露骨に嫌な態度をとられるとどうしてもいら立ちを覚える。
 「そうですか。とりあえず、これまで病院でもらっていたのと同じお薬をお出しします。一緒に血圧と糖尿病を管理しましょう」
 「これまでと同じように、お薬は三カ月分いただけるのですね」
 「えっ…。これまで三カ月分ももらっていたのですか」
 「内科は三カ月に一度の通院でした」
 「それなら三カ月分お出ししますが、来られた時には採血して血糖を測りますね」
 「だめですよ。月に一度、泌尿器科に行く度に採血があります。その採血では駄目なのですか」
 Tさんの持参された血液検査データを拝見した。血糖は測定されているが、グリコヘモグロビンなどは測定されていない。前立腺特異抗原以外の検査はほとんどされていない。
 「泌尿器科と内科では調べる項目が違うのです」
 「でも、何度も採血されるのは嫌です」
 仕方がないので、泌尿器科に手紙を書いて血液検査の項目にグリコヘモグロビンやコレステロールなども追加してもらい、結果を持参してもらうことにした。本当にこれでよいのかと思いながらも、三カ月に一度持参されるデータを見てお薬を出すだけの外来になってしまった。自発的に当院に来院された患者さんとは違い、病院の都合で逆紹介された患者さんと意思疎通をとることは難しい。病院から、かかりつけ医への逆紹介と言いながら、当方をかかりつけ医と思ってもらうまでには、かなりの時間が掛かりそうである。
 Tさんが慌てて来院された。
 「まだ三カ月経っていないのに、どうされましたか」
 「真っ赤なおしっこが出ているのです」
 「それって、泌尿器科じゃないですか」
 「そうなのですが、泌尿器科の予約は三週間後なのです」
 「そんなことを言ったって、泌尿器科にかかっているのでしょう。救急の時には診てもらえますよ」
 「でも…」
 どうも、Tさんは予約日以外には病院を受診してはならないと思っているようである。
 早速、病院に電話して、救急外来で対応してもらうこととした。ほとんど院外処方箋を書いているだけの診察になっていたのに、慌てて当方に駆け込んでこられた。少しでもかかりつけ医と思ってもらっていた証なのだろうか。

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