そこのところが知りたかった! 医療安全Q&A vol.5 弁護士が対応方法をお答えします  PDF

あやめ法律事務所
福山 勝紀 弁護士

 Q、患者が亡くなり、その死亡経過を妻に全て説明。後日、患者の長男にも説明を求められたため対応しました。さらに長女からも説明を聞きたいとの連絡があったのですが、法的にはどこまで対応すれば説明義務を果たしたことになるのでしょうか。また、文書での報告を求められた時はどうすればよいでしょうか。
 A、そもそも、患者の生存中の説明義務は、医療機関と患者の診療契約に基づくものだと考えられています。
 これに対して、遺族への説明義務は、患者本人が死亡している以上、診療契約に基づくものではありません。一般的には、信義則上の義務(簡単に言えば、社会通念上そう解釈するべき義務)に基づいて説明する義務を負うものと考えられています。
 この点、厳密に遺族の範囲について論じられた裁判例はありません。
 確立した議論はありませんが、相続人であるだけでなく、患者の治療や看護に関わっており、医師と密接な関係にある場合に説明義務が認められると思われます。
 そのため、原則論としては、キーパーソンとして考えられている方に説明していただければそれで十分です。
 今回の場合、妻がキーパーソンである場合には、妻に説明していただければそれで十分です。
 もっとも、患者の妻に説明したものの、理解力が乏しく、何の説明を受けたのかよく分からなかった場合等は、あらためて長男にだけは説明する必要があると思われます。長男に説明いただいた後は、長女に対して、すでにご長男に説明したと伝えていただいたら結構です。場合によっては、長男に対して、相続人の代表者として説明するので、他にも聞きたい方がいたら、呼んで下さいと伝えるべきかと思います。
 また、文書での報告ですが、何度も説明する必要がなくなる一方で、仮に間違った説明をしてしまった場合等には、間違った事実を前提に損害賠償を請求される可能性があり、説明義務違反だと言われる可能性もあります。特に患者の死後に説明を求められるケースでは、医療過誤が疑われていることも多いように思いますので、その文書が独り歩きし、のちの医療過誤訴訟で用いられる可能性は否定できません。過失やミスがあったという表現は絶対に避けて下さい。
 文書を作成し、渡す場合でも、いったん弁護士に相談していただき、問題ないかどうかは確認してもらうべきです。詳細な説明を求められる場合は、診療録開示の手続をとってもらうよう伝えていただくことも方法の一つです。

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