医師が選んだ 医事紛争事例 149  PDF

腹腔鏡下左結腸切除術で腸管等損傷

(60歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は慢性的な下痢の精査のため他院から本件医療機関に紹介受診し、下行結腸がんと診断。精査から約1カ月半後に腹腔鏡下で左結腸切除術が実施された。しかし、術中に小腸の腸管損傷と下腸間膜動脈の損傷をきたし出血した。そこで、ただちに血管損傷部の中枢側に鉗子をかけ止血を行い、開腹術とした。術後約1週間後に腹腔内膿瘍が明らかとなり抗生剤を投与し、さらに約2週間後には膿瘍腔を穿刺してドレナージ後約10日で退院した。
 患者は、医療機関からの説明を受けた後、腸管損傷等を医療過誤と考えて、医療費の支払いを拒否するとともに、休業補償を含め賠償請求をしてきた。
 医療機関は後述の通り説明した。小腸損傷については腸管を把持した鉗子による圧挫または鈍的損傷と推測したが、腹腔鏡の視野外で発生したことから詳細については不明。修復は腹腔鏡下でも可能であったかもしれないが、確実性を求めて開腹術に移行した。腹腔内膿瘍については、小腸損傷による腹腔内汚染が左結腸剥離面に波及したと判断した。手術適応は問題なかった。手技については動脈の視認を誤り脂肪組織に隠れた部分の確認が結果的に不十分であったために、超音波凝固切開装置をあててしまい損傷をきたした。小腸の損傷は組織強度以上の力がかかったためで、過誤か合併症か医療機関としては判断を迷うとした。
 ただし、これらの院内調査の前から、担当医の上司となる医師が患者側に自分が執刀していればこのような医療事故は発生せず、担当医が未熟であったため発生したとして、事実上の結果発生から過誤を認めてしまい、謝罪をした経緯があった。
 紛争発生から解決まで約11カ月間要した。
〈問題点〉
 手技については、医療機関側の陳述とカルテ記録を確認する限り過誤を指摘できる状況と認められなかった。よって合併症と判断してよいと思われる。前述したように、担当医の上司となる医師が不適切な説明を患者側にしたことが、問題を複雑化した。院内での人間関係や、上司の医師の姿勢には疑問を残すものであった。
〈結果〉
 執刀担当医の上司となる医師が不適切な発言した後では、「検討した結果、実は合併症であった」といった弁明・主張が相手側に通用するとも思えず、過失の挙示について、その費用を説明義務違反とし見舞金名目で若干の金銭を支払うこととなった。

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