鈍考急考 21 在留資格を理由に病人を見捨ててよいのか 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

 重い病気やけがでも、保険に入っておらず、お金も乏しければ、医療を受けられなくてもしかたがない――あなたはそう考えるだろうか。
 それとも、事情はともあれ、すべての人に医療が提供されるべきだろうか。
 現実に日本で、そこが問われる事態が少なからず生じている。外国人の医療である。
 外国人でも、社会保険適用事業所の常用労働者、常勤の公務員、法人の常勤役員、それらの扶養家族などは、職域の医療保険に加入する。
 それ以外でも3カ月を超える在留資格の人と、難民申請して一時庇護か仮滞在の許可を得た人などは住民登録が必要で、国保に加入できる。
 これに対し、3カ月以内の短期在留資格の人や、オーバーステイ、仮放免のときは公的医療保険に入れない。
 海外旅行保険に入っているか、母国の医療保険を使えればいいが、そうでなければ無保険状態である。
 日本人なら、無保険でも生活保護で医療は受けられる。
 しかし厚生労働省は、外国人に生活保護法を適用せず、1954年の局長通知に基づく行政措置として、法に準じて保護を行うとしている。
 そして生活保護の対象になりうる外国人を、①特別永住者②永住者③日本人の配偶者・子・特別養子④特別永住者・永住者の配偶者、日本で生まれて引き続き在留中の子⑤定住者⑥難民認定者――に原則として限定している。
 このため、短期滞在、オーバーステイ、仮放免中などの外国人は排除されている(活動に制限のない特定活動の在留資格を得たときは、保護が認められることがある)。
 オーバーステイや資格外活動が見つかれば、通常は入管施設に収容され、そこでの医療は入管が責任を負う。
 ところが入管は、ルール違反の滞在者でも病気なら収容せず、収容中に病気になったときは仮放免するという運用をしばしば行う。仮放免されても国保には入れず、生活保護も利用できない。
 重い病気なら、療養目的の特定活動という在留資格が与えられることがあり、その場合は国保に加入できるが、生活保護は使えないとされる。
 自費診療で受診すると、10割負担どころか、保険診療の何倍もの計算で請求する施設が公的病院の中にもある。
 行旅病人の法律を市町村が適用すれば、医療は公費負担だが、居住地を離れ、歩けない病状という要件がある。
 外国人の未払い医療費の補填制度は国が救命救急センターへの補助金に組み込んでいるほか、関東の都道府県が独自に実施しているが、使える範囲は限られている。
 結局、頼れるのは無料低額診療事業ぐらい。ただ、この事業を行う医療機関も、保険の自己負担の減免にとどまることが多い。無保険でも無料低額診療に応じる病院は多額の費用を持ち出している。
 非正規や短期の滞在だとしても、病人・けが人を見捨ててよいのか。人道上どんな制度を求めるべきか、医療関係者は手だてを考えてほしい。
 それが実現するまでは民間で基金を設け、寄付金や助成金をもとに医療を提供するといった方法もありうる。

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