形成外科の基礎と言える皮弁で“講義” 常に正常で綺麗な状態保つこと考え  PDF

 形成外科診療内容向上会が6月26日、京都形成外科医会と京都府保険医協会の共催で開催された。少人数の形成外科医会では珍しく19人の参加があった。

形成外科診療内容向上会レポート

 始めに外科医でおられる協会理事長の鈴木卓先生より先生と形成外科との接点をご紹介していただきました。
 特別講演にお招きしたのは関西、いえ、日本の形成外科の創始者である御歳90歳になられた冨士森良輔先生です。京大医学部ご卒業後、すぐ皮膚科の病棟に看護師1人と交換場を与えられ、形成外科という名前すらない時に誰にも教わることはなく体の表面を正常な綺麗な状態にする外科を始められたのです。今年からご子息の冨士森英之先生に冨士森形成外科を委ねられるまで、現役でメスを振るってこられました。
 ご講演というより、講義の内容は形成外科の基礎と言える皮弁の基本的な考え方についてでした。まずはZ形成術にロングZ。V-Y、ロンボイド、ハゲドロン、ビューローの三角。症例を示され、どんなデザインにするか皆に考えさせる、そして先生が行った手術を見せる。しかし、その手術が必ずしも正解ではない。と言っても多分多くの形成外科医も患者もうまく行ったと思っているような結果。その完璧ではない結果に対し、さらにどう落とし前をつけたか修正手術も見せてくれる。京都にいながら不幸にも冨士森先生と手術をした経験のない形成外科医はデザインを見て全く傷跡がないところに大きくメスをいれてよいのかと驚く。そんな大胆なこと、自分には全く考えつかなかったと驚嘆する。そこまで皮膚が欠損していたら皮弁など無理。植皮をしよう、と東京の形成外科医なら考える。そしたら継ぎ接ぎになる。
 私は幸せなことに医学部卒業後6年半、べったり冨士森先生について回った。手術中も、診療の合間も仕事の後も、夜中までずっとお話をして下さる。どうしたら綺麗に仕上げられるのか、常に考えておられるから次々発明される。特許もずいぶんお持ちだ。いきなり突拍子もない話から始まる独特の話術。今のご時世ならパワハラといわれるでしょうが、診療後の夜に最も大事なことを教えてもらえる。
 今回はコロナで4人以上の会食禁止とか7時以降はお酒も禁止とかの御達しが出ているので懇親会はありませんとご案内していたところ、前日に冨士森先生から電話が。学会中だったので夜になりかけ直したところ、何とすでに懇親会を御自分でアレンジされたとのこと! とても大きな丸いテーブルをお隣同士かなりの間隔をあけて12人で囲みました。
 ノンアルコールのワインやビールを「これ美味いな」といって飲みながら昔の仲間から昔話。新入局員に「論文を一つ書くよりは友達を3人作れ」とおっしゃった話。全麻のかかった患者さん。「デザインしてみ」、と仰るので弟子がデザインをすると、「切ってみ」、と仰るのでメスを入れフラップを入れ替えると上手くいかない。「どうするつもりだ?」と仰る。そして教えてくれない。1時間も考えなんとか落とし前をつける。そうやって私たちは鍛えられました。自分で考えたから身につくのです。
 京大医学部に入学される前は、坊ちゃんよろしく地元松山で教師をされていたと聞きます。なるほど。37年間存じ上げていますが、全くお変わりない。特に運動もされないしお酒も召し上がるし食養生されているようにも思えない。毎晩就寝は2時頃。けれど相変わらず頭の回転が早くお話が面白い。背筋もシャンとされ髪の毛も立派にありお肌もつやつや。どうしたらそんなにお元気に歳を取れるのかとお聞きすると、「私にとっても初めての90歳だから分からんのだよ」とのお返事。
(東山・鈴木 晴恵)

ページの先頭へ