保護活動から環境問題学ぶ ニホンライチョウの復活を  PDF

 保団連近畿ブロック公害環境対策で、「人を恐れない神の鳥ライチョウを守る」と題した市民公開講演会を4月25日にウェブで開催した。講師は信州大学名誉教授の中村浩志氏。参加者は36人となった。

 中村氏は、ニホンライチョウは本州部の高山でのみ繁殖する鳥で、2012年に絶滅危惧IB類に分類されていることを解説。日本のライチョウは世界の最南端に分布し氷河期に大陸から日本列島にやってきており、温暖化で高地に逃れ生き延びた世界的に極めて特殊で貴重な鳥だと述べた。
 また、日本アルプスの生息地域で、足環によるライチョウの標識調査を実施。ニホンライチョウは個体の交流が少なく、遺伝的多様性が低い特徴があり、環境の変化で絶滅しやすい。温暖化によってキツネ、テン、ハシブトガラス、チョウゲンボウなどの低山動物が高山へ侵入しライチョウを捕食することや高山の植生を破壊してしまうことで、1981年には南アルプスで63あったなわばりが、04年の時点で18にまで減少していたと述べた。
 このままではニホンライチョウが絶滅してしまうと国も危機感を抱き、13年に環境省が「ライチョウ保護増殖事業検討会議」を発足。14年にライチョウ保護増殖計画が作成され、保護活動が始まった。
 保護活動は、域内保全として①ゲージでの保護②捕食者除去③イネ科植物等の除去、域外保全として飼育技術と野生復帰のための技術の確立が打ち出された。①は雛が孵化する時期がちょうど梅雨にあたり、悪天候で命を落とす個体が多いことから、孵化後1カ月間は悪天候時にゲージで保護し、捕食者への対応も兼ねて人の立会いの下、放鳥するというもの。③は、温暖化の影響で高山にイネ科植物が侵入し、ライチョウの餌となる高山植物を脅かすため、除去するというもの。また、域外保全ではスバールバルライチョウの飼育が各地の動物園で試みられ、15年からはニホンライチョウの飼育が実施されている。こうした取組みのもと、南アルプスのなわばり数が19年には32に増えた。
 2020年には中央アルプスにライチョウを復活させる事業を計画。2年前に飛来した1羽の雌に有精卵を抱かせ、孵化したら1カ月ゲージで保護する計画と乗鞍岳から3家族を移住させる計画が同時に進められた。残念ながら、孵化した直後にニホンザル約30頭の群れが乗鞍岳に上ってきており、生まれたばかりの雛と卵は全滅。しかし、飛来雌と第1ゲージの移住雌が一緒に生活していることが8月に判明し、中村氏は今夏、越冬できているかどうかを確認すると述べた。
 中村氏は2021年には4家族をゲージ保護し、2家族は放鳥、2家族は動物園で飼育。2022年に中央アルプスに放鳥する予定とした。そして、5年後の2025年までに100個体に増やすこと。絶滅危惧IB類からⅡ類に戻すことを中期目標にし、最終的には人の手を借りなくても集団を維持できるレベルにしたいと述べた。

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