談話 「新型コロナと医療機関の支援」に診療報酬「単価補正」を持ち込むことは断じて認められない  PDF

 2021年4月15日、財務省が財政制度審議会・財政制度分科会において「新型コロナと医療機関の支援」として診療報酬の「単価補正」を選択肢にあげた。
 財務省は新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、国費が医療提供体制等の強化へ主なものだけで8兆円も出動されてきた。それでもなお「個別」に「減収が起こり得るのであれば」、「より簡便な効果的な支援のあり方を検討することが必要」と述べ、「単価補正」を例示したのである。単価補正による支援とは、診療報酬の1点単価(10円)を例えば収入が2割減なら12・5円に補正するといった手法で、「前年同月ないし前々年同月水準の診療報酬を支払う」ものである。
 私たちは財務省の提案から2つの意図を見出すことが出来ると考えている。
 1つは、新型コロナウイルス感染症拡大に関する医療機関への支援について、これまでの緊急包括支援交付金等のような、直接の国財政の出動を止めることである。
 財務省のペーパーでは、「診療報酬の不足は診療報酬で補うことが自然」として、単価補正導入を機に緊急包括等支援金交付金を廃止する方向性が示されている。「診療報酬の不足は診療報酬で」というのはもっともらしいが、実のところ結果的に保険者・被保険者に負担を転嫁するものである。新型コロナウイルス感染症拡大の要因には政府の無策ぶりがあり、結果生じた医療機関の困難を補うための負担を保険者・被保険者が被る道理はまったくない。
 加えて、「新型コロナに対応しない医療機関にも講じてきた多額の支援」の「見直し」を示唆し、今後の医療機関支援を直接新型コロナウイルス感染症の患者受入を行う入院医療機関に特化させようとする方針が示されていることも看過できない。
 さらに、そもそも財務省が示しているのがあくまで「今後」の支援策であり、既に生じた減収の補填を想定していない点である。財務省は今日までの財政出動により、減収は既に補填されていると考えているのだろう。しかし、診療所や新型コロナウイルス感染症を受け入れていない医療機関、とりわけ小児科・耳鼻咽喉科は厳しい状況を脱してはいない。新型コロナウイルス感染症は感染した人のみならず、すべての人々の受療行動に変化を与え、その健康課題に甚大な影響を与えている。人々の生命・健康を守るすべての医療機関を対象に財政支援を継続し、「減収補填」を実施すべきである。
 2つは、診療報酬単価の操作による医療費コントロール政策の本格展開の契機としようとの狙いが垣間見えることである。
 同分科会の「参考資料」には、「医療費の伸びは、これを賄う雇用者報酬等の伸びを大きく上回り、保険料率引上げ等の要因となっている。医療保険制度の持続可能性の確保の観点から対応を検討すべき」と記述され、診療報酬総額を抑制し、国民負担増加を抑制する観点から「診療報酬等の単価を抑制していくことが必要」とある。その上で、「診療報酬と地域差」と題したスライドにおいては、「今後の検討課題として、1点単価に地域差を設ける対応、1点単価を変えずに地方財政制度の基準財政需要同様に地域ごとに補正係数を乗ずる手法、地域加算の拡大を含め、診療報酬制度における地域差の反映方法について幅広く検討すべき」と述べている。
 財務省資料には、早い段階から高齢者の医療の確保に関する法律第14条に定められた「医療費適正化を推進するために必要があると認めるとき」の「他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる」措置、即ち都道府県別診療報酬の活用を訴えてきた奈良県知事の意見書も引用されている。都道府県別診療報酬の発動は厚生労働大臣に与えられた権限であり、都道府県医療費適正化計画の達成に必要な場合に発動される。「住民の健康の保持」や「医療の効率的な提供の推進」といった医療費適正化計画の目標達成のために診療報酬単価の「異なる定め」をすることができるというこの規定を、なぜ財務省はわざわざ記載しているのか。
 医療制度構造改革は、都道府県を医療費抑制主体に据え、医療費適正化計画を核に、保険財政と医療提供体制を管理させる仕組みを作った。この仕組みの下で地域医療構想や医師偏在対策、専門医制度といった様々な政策は展開されてきたのである。都道府県別診療報酬はその究極の策の一つといえるが、万一、今回の単価補正を許せば、新型コロナ禍を契機にその実現へ大きく足を踏み出す動きを引き起こしかねない。
 診療報酬単価の統一は、「いつでも・どこでも・誰でも」の皆保険体制を構成する重要原則である「全国統一給付保障」の大前提である。
 保険医協会の先人たちは発足後間もない国民皆保険制度を真に社会保障としての医療保障を担い得る仕組みとするため、制限診療を廃止させるとともに地域差を廃止し、単価統一を実現させてきた。
 私たちはそうした保険医運動の歴史を継ぐものとして、今回、財務省が提案した「新型コロナと医療機関の支援」に診療報酬「単価補正」を持ち込むことには断固として反対する。
2021年5月21日
京都府保険医協会
理事長 鈴木 卓

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