医師が選んだ医事紛争事例 135  PDF

腰椎圧迫骨折の診断
コルセット装着で内臓に障害

(70歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、腰椎椎間孔狭窄、右変形膝関節症、骨粗鬆症等で本件医療機関の整形外科に通院していた。腰痛の症状が悪化したため、X線撮影、MRIが実施された。当日、整形外科の主治医が不在のため、A整形外科医師が検査所見を見て、L2椎体の下部とL3椎体の上部の腰椎圧迫骨折を疑い、脊椎コルセット(ジュエット型)を装着した。その後、患者が食事を摂れないと訴えたため、その翌日に内科医師がエコーと胃カメラ検査を実施し、その所見から胃炎と診断して薬剤を処方した。コルセット装着から約3週間後に、主治医が診察したところ、椎体骨折の所見は把握できず、腰椎変性側弯と診断して、コルセットから腰部固定帯に変更した。
 患者側は、コルセットの使用が原因で内臓に障害が生じ、B医療機関に入院することになった。A医師の診断・治療の誤りによる医療機関側の責任と訴えてきた。
 医療機関では、骨折の有無について主治医とA医師とで意見が異なったが、最終的には骨折はなかったものと判断した。しかしながら、骨折の有無にかかわらず、コルセットの装着は疼痛の緩和に適応があると主張した。ただし、コルセットの装着と内臓への障害との関係は経時的には否定し難いにしろ、病因論的には不明とした。
 紛争発生から解決まで約3年5カ月間要した。
〈問題点〉
 カルテには腰椎圧迫骨折と傷病名が記載されていたが、A医師はレセプト病名で、それを疑ったからとのことであった。患者側に誤解を与える可能性があるので、「レセプト病名」の説明が必要となる。また、腰痛症では、疼痛症状の発症当初や増悪期において、X線撮影だけで椎体の圧迫変形像をみて新鮮骨折であるか、陳旧性骨折として遺残した圧迫変形像であるのか、両者の鑑別には難渋することがある。鑑別診断学的には、MRIにより椎体内の出血像を検出して、新鮮骨折として対処することが可能となる。血腫像では、ヘモグロビンの酸素飽和度の変化や変質過程に対応する輝度変化から、発生時期を推測することも可能である。しかし、椎体終板部の破壊の程度が少ない場合は、新鮮骨折として典型的な画像が得られず、疑診に終始する可能性もあり、慎重な対応が求められる。
 患者が主張するコルセットに関しては、腰椎圧迫骨折の有無にかかわらず適応はあった。また、医療機関側によれば、構造上も内臓を圧迫する形態ではないので、コルセット装着と内臓の障害との因果関係は容認できないとの見解を示した。なお、B医療機関の医師が、患者に対してコルセットが内臓に障害をきたした原因と述べたとのことであった。事実かどうかは疑わしく、争いとなる場合にはその医師の意見書を要するものともなろう。
〈結果〉
 医療機関が患者に詳細にわたり説明を試みた結果、患者からの訴えが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決とした。

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