新型コロナから利用者と事業所守る介護報酬改定を  PDF

 2021年度は3年に1度の介護報酬改定の年である。新型コロナウイルス感染症の拡大は医療機関のみならず、介護サービス事業所に深刻な影響を与えている。高齢期の介護保障は国・自治体の責務であり、今次介護報酬改定はとりわけその姿勢が問われるものである。協会は2月17日、報酬改定にあたっての意見を提出した。以下に全文を紹介する。

2021年2月17日
令和3年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正に関する意見

京都府保険医協会 理事長 鈴木 卓

 令和3年度介護報酬改定につき、以下のとおり意見を述べる。

1.新型コロナウイルス感染症の影響を正面から受け止め、対象者と事業者を守る報酬改定と保険外財政の投入を行うこと

 今次改定は、新型コロナウイルス感染症という未曽有の事態において行われる。各事業者は感染する・させるリスクと闘いながら、懸命に介護サービスを提供している。医療と同様に介護サービスは人々にとって健康に生きるための欠かせざる社会保障として、国の責任において提供されるべきものである。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、介護を必要とする方々からサービスが奪われることのないよう、介護サービス事業全般が被っている甚大な影響を正面から受け止めた改定と対策を求め、下記の点を要望する。
(1)事業所が新型コロナウイルス感染症に感染した対象者にサービスを提供した場合の全額公費による報酬の上乗せ
(2)保健所と情報を共有し、感染防止対策に努めてサービスを提供した場合の全額公費による報酬の上乗せ
(3)事業所が新型コロナウイルス感染症に起因する経営危機に陥らないようにするための介護保険財政以外からの全額公費による補助制度の創設
(4)事業所スタッフが感染した場合、休業を余儀なくされた場合の介護保険財政以外からの全額公費による補助制度の創設

2.基本方針を踏まえた居宅療養管理指導の実施と多職種連携の推進の前提

 「居宅療養指導管理料の提供にあたり、利用者の社会生活面の課題にも目を向け、利用者の多様なニーズについて地域における多様な社会資源につながるよう留意し、必要に応じて指導、助言等を行う」旨を通知に記載するとある。
 従来、地域の開業医は地域の保健所や福祉事務所等、地方自治体と連携し、個々の患者を診るとともに、地域全体を診る存在として活動してきた。しかし、国政策は保健所機能も含めた地方自治体の機能を合理化・効率化の名のもとに後退させてきた。
 居宅療養管理指導料の要件化を通じ、そのような地域の医師の役割をあらためて再確認すること自体に反対するものではない。しかし、地域において医師がそうした役割を果たすには地方自治体側の住民生活・福祉を支える機能の再生が不可欠であり、介護保険制度の狭い枠内で論じて済ませる問題ではないことを指摘しておきたい。

3.ケアマネジメントの「特定事業所加算」について「インフォーマルサービス」を含む居宅サービス計画の作成を算定要件として求めないこと

 高齢者が地域の中でその人らしく生きられるよう、地域の方々や自治組織とつながることは大切なことである。しかし、地域の「助けあい」や「支え合い」は、あくまで住民自身の自発的なものであり、他の介護サービスと並列に扱うべきではなく、ましてやフォーマルなサービスの代替と位置付けられるようなことはあってはならない。

 「助け合い」「支え合い」は、各地域の実情による格差があって当然なのであれ、普遍的に提供可能なものではない。また何より、インフォーマルサービスは介護サービスに不可欠な専門性が担保されているものでもない。したがってインフォーマルサービスが対象者の介護保障に資するものであるか検証することすら不可能である。
 以上のことから、「インフォーマル」であることのみを以て「質の高い」ケアプランであるとするような算定要件は望ましくないと考える。

4.生活援助の訪問回数の多い利用者等のケアプランの検証

 平成30年度の報酬改定において導入された生活援助の訪問回数が多い利用者のケアプランの検証の仕組みについて、あらためて廃止を求める。
 生活援助は介護サービスの基礎中の基礎である。国は長年にわたり、生活援助を敵視し、保険給付からの除外さえ検討してきたと認識するが、いかなる身体介護サービスも、医療の提供も、当事者の生活そのものを支える仕組みなしには成り立たない。その点で、生活援助の訪問回数の制限を事実上促すような仕組みは、介護保険制度自体の正当性そのものを脅かすものである。

5.理学療法士等による訪問看護について「評価や提供回数等の見直しを行う」とされていることについては実施しないこと

 当初提案されていた「看護職員割合6割以上」が単位数本体の人員配置基準化がなされなかったことには胸を撫でおろしたが、代わって提案された「評価や提供回数等の見直し」についても、現場への影響は避け難い。
 理学療法士等の訪問看護を利用する方は、体調面や在宅での生活動作に不安があることから、訪問リハビリテーションではなく訪問看護ステーションからのリハビリサービスを選択する。理学療法士等の訪問看護では看護師と理学療法士等が連携して訪問することで、早期の回復を図ることが可能となっている。改定によって、理学療法士等の訪問看護が制限されることになると、機能面や在宅生活動作能力の回復を遅らせることになり、妥当な案ではないと考える。
 また、看護体制強化加算の要件とされた看護職員6割以上の基準だが、これを満たそうとするとおのずと理学療法士等の訪問看護は縮小していく。元々、訪問看護によるリハビリはあくまで訪問看護の補助的な意味合いが強いところから始まってきたとはいえ、現時点では看護師との連携も進んできて、より良いサービスとして機能してきているのにその点がまったく評価されないことは残念でならない。
 そして、理学療法士等の訪問看護に代わるリハビリテーションサービスを用意もせずに、このようにただ一方的にサービス提供を抑制し、利用者・事業者双方に我慢だけを強いることは許されないだろう。至急に代替サービスの構築が重要と考える。

6.訪問リハビリテーションでの「事業所医師が診療しない場合の減算(診療未実施減算)の強化」については実施しないこと

 事業所外の医師に求められる「適切な研修の修了等」について、令和3年3月31日までとされている適用猶予措置期間を3年間延長することについては、実態に即した対応であり評価できる。一方で、診療未実施減算の単位数の見直しを行うとしていることについては容認できない。事業所の中からは、訪問リハビリのための診察が困難との声も多く聞かれ、実施したくてもできない現状があることも理解いただきたい。さらにコロナ禍により診察が難しくなっており、電話やビデオ通話等での診察を基準上認めるべきとの声も寄せられている。現在の20単位減算の取り扱いにおいても、すでに訪問リハビリから撤退した事業所は少なからず存在しており、このまま告示案通りに50単位の減算が実施されればさらに多くの事業所が撤退を余儀なくされるであろう。

7.通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションでのリハビリテーションマネジメント加算(Ⅰ)の基本報酬への算定要件化にあたっては、少なくともこれまでの単位数をそのまま基本報酬に上乗せして実質的に報酬が引き下がらないようにすこと。また、これまで加算(Ⅰ)を算定していない事業所が円滑に対応できるよう、当該事業所に対する算定要件化には経過措置を設けること

 リハビリテーションマネジメント加算(Ⅰ)は、今や多くの事業所で算定している重要な加算であり、単に算定要件化して安易に報酬を引き下げるようなことがあってはならない。また、特に訪問リハビリテーションにおいては未算定の事業所が1割を超えており、即時要件化には対応ができないことが容易に予想される。必ず経過措置を設けてほしい。

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