エッセイ へき地医療を考える 美山診療所に赴任して 中村 真人(船井)  PDF

 美山診療所に2020年4月から赴任しました。病院の先生方にはすでに患者さんの紹介などで大変お世話になっております。すでに新聞報道などでご存じかと思いますが、美山診療所の縮小問題について、赴任前の情報としては公設民営から南丹市の国保直営になる診療所という話しか聞いていませんでした。この地域は、医師が見つからなくて本当に困っているとのことで、晩年をこういったへき地で終えてもいいかなとの思いで決意しました。色々調べたところ、南丹市の面積55%を占める美山町には病院がなく、4床の病床と15床の老健を有する有床診療所(美山診療所)だけしかないことに驚かされました。
 外来を始めると90歳以上の高齢者単独世帯、高齢者夫婦世帯が多いのに驚かされました。このような方が熱が出てご飯が食べられない、痛みが強く動けないというような時に、当診療所に一時的に入院して経過を観察することができました。また、この地域は介護力が乏しく、老健を利用されている方も多くいらっしゃいます。にもかかわらず、この病院のない地域で、行政は外来だけの診療所にすると言い出したのです。
 当然、住民からは反対の声が上がり、芦生結の会、知井高齢者有志が市役所に詰めかけ要望書を提出されたり、住民集会も開催されました。しかし、市長はじめ行政側の人間は誰一人顔を出しませんでした。また、縮小反対の署名活動も行われ、わずか1週間で美山住民の半数以上の署名が集められ行政に届けられました。住民の要望は病院を建てろという大きな要望でなく、今あるものを残してほしいと言っているだけです。なぜこのような単純なことに耳を傾けられないのか不思議でなりません。
 このようなへき地医療の問題は全国各地が抱えている問題です。地域に散在する診療所、病院が連携して協力しあうシステムを構築していかなければなりません。それには、行政と地域の医師会が協力してへき地特有の地域包括ケアシステムを作り上げる必要があります。

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