はじめての出会い 渡辺 寛(下京西部)  PDF

 昨年7月のある日、午前1時半、両足の吊る感じで目が覚めた。こむら返りである。若い時なら起き上がって足の趾を引っ張って筋肉をほぐすが、歳を重ねてからというもの、上半身を起こす動作自体がふくらはぎの痙攣を増強し、激痛をきたす。体を静止し、我慢して、時の過ぎるのを待つしか仕方ない。
 しかし、今回はなんとなく様子が違った。いつものように暗い部屋の中で目を瞑り、心して息を殺し、仰向けのままこむら返りの恐怖に対して歯を食いしばる。
 右ふくらはぎのつっぱりが次第にきつくなってくると同時に、今まで経験したことのない、右第2趾3趾の皮膚があたかもカミソリの刃でゆっくり抉りとられていく様に思わず悶絶しそうになる。まさに拷問、“もうやめてくれ”と心で叫ぶ。
 気を取り直してベッドより立ち上がったはよいが、なんとなく背中に何かが蠢いている気配、手で払いのける。痛みをこらえながら、恐る恐る部屋の電気を点けて見渡すも何も見えず。ベッドに腰を落とし、2時間ほどうとうとする。
 別室で寝ていた妻の「お風呂場を見てきて」の言葉に、ちらっと見るや、妻が捕ったムカデが浴槽に浮いているではないか! 驚きとともにひと安心する。
 74歳にしてはじめて味わった経験をちょっと誇らしげに友人に話すと「ムカデはたいがい番つがいでいる」と。まだどこかに片方が潜んでいるのかと想像すると、小さな影はすべてムカデに見え、今年も安眠できない毎日を過ごすこととなる。

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