鈍考急考 12 困りごとのナビゲーター 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

 このコラムを筆者はジャーナリストの肩書きで執筆しているが、実はそれは本業ではなくなった。
 長年勤めた読売新聞大阪本社を昨年9月末で辞めた後、今年夏からソーシャルワーカーと行政書士の両方の業務を行う事務所を堺市堺区に開設した(相談室ぱどる/ぱどる行政書士事務所)。
 暮らし、家庭、医療、職場など様々な相談に乗り、生活設計、手続き代行、見守り、財産管理、患者支援、さらに後見、遺言、相続、死後事務といった法的手続きを行う。
 そういう事業をやろうと思ったのは、病気・障害・介護・死亡といった事態が生じたとき、家族・親族が考えるべきこと、やるべきことがあまりにも多く、大きな負担になることを、自分の親族のケースで痛感したからだ。
 総合的なガイドとともに、実際のお手伝いもする存在が必要ではないかと考えた。
 たとえば、1人で暮らしていた親が病気で入院し、そのあと施設に入る場合。
 どの病院がよいのか、どの施設がよいのか、どんな制度やサービスを使うべきか、それらの契約を誰がやるか、財産管理をどうするか、家を処分するべきか、将来の相続をどうすればよいか……。
 たくさんのことが急にのしかかってくる。利用できそうな制度を調べ、相談先を探し、施設や事業者の情報を集め、比較検討して決めないといけない。行政への申請、事業者との契約、お金の管理と記録などをやりつつ、税金対策も考えておく必要がある。
 もし亡くなったら、お葬式だけでなく、遺品整理、行政や金融機関の手続き、相続、お墓なども課題になる。
 社会保障、法律、税制を知らないと大損することがあるし、遺産分割で骨肉の争いになることも少なくない。障害者の親なき後も、具体的な手立てを準備する必要がある。
 しかし一般市民は社会保障や法律の教育をほとんど受けていない。制度は多岐にわたり複雑。相談窓口も縦割りなので、全体像をつかめない。
 公的機関、医療機関、福祉事業所などにいるソーシャルワーカーは、相談に乗って生活を支援する専門職なので活用したいが、残念ながら法律には明るくないことが多い。
 後見、相続、不動産、借金といった法的問題は切り分けて専門家に頼むことになる。だが弁護士、司法書士、行政書士、税理士などのうち、どの専門職の仕事なのか、具体的に誰に頼むのか、選び方がむずかしい。また法律の専門職は社会保障、生活支援、医療に必ずしも明るくない。
 結局、肝心なのは親族の中でしっかりした人が軸になって動き、判断すること。
 けれども、判断能力のあるしっかりした人が親族の中に誰もいなかったり、仕事で忙しかったり、遠方だったり、疎遠だったり。おひとりさまや老々世帯だと、近い親族が全くいないことがある。
 一方、しっかりした人がいて真面目に取り組むと、多大な時間と労力を費やし、精神的にもくたびれてしまう。
 情報取集、判断、手続きを助けるナビゲーターは超高齢化が進む中、公的なしくみとしても必要ではなかろうか。

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