政策解説 京都市持続可能な行財政審議会と地方自治体の本旨  PDF

 京都市は2020年7月2日、第1回京都市持続可能な行財政審議会を開催した(本紙3079・80合併号既報)。市は審議会の設置目的について概略、次のように広報している i。京都市は元々市税収入が他の指定都市の平均を下回り、構造的に財政基盤が脆弱である。地方交付税の大幅削減(小泉内閣期の三位一体改革に端を発する)、2018年の西日本豪雨をはじめ相次いだ災害への対応に手を打ったことにより、財政調整基金が枯渇した。そのような中でも「全国トップレベルの福祉、医療、子育て支援、教育を維持・充実」してきたこと等により、「公債償還基金」を取り崩して財源を確保せねばならないほど、極めて厳しい財政運営を余儀なくされている。その上、新型コロナウイルス感染症で市民生活・地域経済の下支えは進めねばならず、一方で市税や府税交付金は大幅な減収が見込まれる。この危機を打開すべく、「持続可能な行財政の確立」のため本審議会を設置し、「市民ぐるみで議論」する。審議会は門川大作市長の諮問書(2020年7月)を受けて審議しており、2021年3月末の答申を目指すという。
 本審議会での議論において、特徴的なのは「歳出改革」への傾斜である。
 地方自治体の歳入は基本的に、地方税、地方交付税、国庫支出金、地方債で構成されている。負債を計画的に返済するための公債償還基金に手を付けねばならないほどの財政難に直面したなら、採るべき方策は歳入を増やすか、歳出を減らすか、という議論にならざるを得ないのは事実であろう。
 第3回審議会資料 ii「第2回審議会における議論のまとめ」にある記載は、この審議会の議論がどこへたどり着こうとしているかを明白に教える。「京都市の財政健全化に向けて、①地方交付税の必要額の確保②税収の底上げ・独自財源の確保③独自施策の水準の見直し―の大きく三つの課題があり、どれも重要で進めていくべきだが、①は相手がある話で、②も一定の期間を要すなど、すぐには財源が手に乗ってこない。やはり、現に財源不足が出ている以上、③の独自施策の水準の見直しに着手せざるを得ない」。この理屈だと、医療・福祉も含めたサービスの切り下げにもっぱら焦点があたることになってしまう。
 第4回審議会では、具体的には公債償還基金の枯渇を避けるため「今後必要となる改革の規模」(図)が示された。
 2020年度現在の公債償還基金残高は1,388億円、現行の改革プラン(「はばたけ未来へ!京プラン」)を実施したとしても、「コロナによる収支悪化を反映」した推計では25年度(R7)を最後に基金は枯渇する。そこで中間目標(案)とし25年度に1,000億円の残高を維持、33年度(R15)に満期一括償還の約1年分の残高(473億円)を維持と設定し、そのために必要な財源を25年度までに合計780億円、26~33年度に合計2,640億円の財源が必要としている。
 その達成に向け、「社会福祉を含むあらゆる市民サービスの持続可能性(受益と負担のあり方を含む)」の検証、「行政の仕事のあり方の見直しと効率的な執行体制の確立」が見直し対象になっている。
 前者では例えば敬老乗車証事業、学童う歯対策事業、被災者住宅再建等事業、市町村国保特別会計への一般会計繰入、あるいは地方交付税措置のない任意事業等(独自の障害福祉サービス・医療における自己負担金軽減、老人医療費、子ども医療費など)が、後者に関わっては「保有資産の総点検」として、未利用土地の売却も含めた活用、公共施設の総量縮減等が取り上げられている。
 ただし、審議会で具体的に取り上げられなくとも、市当局が何を持ち出してくるかわからないのが実情である。
 京都市は審議会の動きと併走するように、行財政局財政担当局長・都市経営戦略監名による通達「危機的な財政状況における新たな改革提案について(依頼)~都市経営の視点、ウィズコロナの視点を踏まえた行財政改革~」を2020年7月15日、8月19日に京都市の各局、室、区役所支所および市会事務局並びに委員および委員会事務局の長宛に発出した。この通達は「財政の危機を乗り越えるため、これまでのルールにとらわれない踏み込んだ行財政改革を断行するため、具体的な取組を提案して下さい」と呼びかけている。通達の添付別表には、「財政創出の切り口」と題し、「資産の有効活用(マネジメント(統廃合)、売却・貸付)」や「持続可能な仕組みとするための本市独自の施策の見通し」「民間活力や新たな事業手法(SIBiii 等)の活用」等を並べている。
 いずれも国の方針に基づき、従来から京都市が実施してきた手法の徹底をもたらすものである。「財政創出」どころか、自治体による市民への直接のサービス提供を後退させ、民間企業へ市民財産を売り渡し、ビジネスチャンスを提供しつつ、市財政への負担を軽減するものといえる。
市民の暮らしを守ってこそ
 もたらされようとしているのは、市民生活にかかる全面的なサービス後退である。対抗するにはもちろん、個別課題を一つずつを取り上げ、それらの制度を他ならぬ京都市自身がなぜ創設し、今日まで存続されてきたか。市民の暮らし、健康にどのように役立っているか。それが失われることでどのような問題がもたらされるか。それらを市当局に丁寧に突きつけていく取組が必要である。
 だがそれだけでは不十分であり、京都市政そのものの在り方、市民に対する姿勢を根本的、批判的に問い直す視座も求められる。
 さまざまなサービスを切り捨て、その結果市財政が危機を脱したとしても、市民の暮らしや健康が損なわれたのでは話にならない。それがわかっていないのではないか。審議会の議論や市の通達に対し、痛切に覚える違和感がそれである。京都市は、地方自治体ならば市民の困難に寄り添いながら行財政政策を立案するのが当然である、という感覚自体を失ってしまっているのではないか。
 第一に問われているのは国に対する姿勢である。具体的には地方交付税の在り方自体の見直しを強く国に対して求めているのか。言うでもなく地方交付税は、すべての地方団体が一定の行政サービスの水準を維持できるよう、財源を保障するという観点から設けられている。新型コロナウイルス感染症によって、多くの地方自治体が公債発行を増加させざるを得ない今日の事態にあって、これまで住民に提供してきたサービスの維持が困難に陥っているとすれば、サービス切り捨てより先に、国へさらなる財政措置を求めること。これこそが第一にやるべきことだ。iv
 また京都市という都市をどのようなまちにしたいのか。その基本哲学も問われている。そもそも財政難の根本原因にインバウンド頼みの政策運営の破綻が影を落としていないのか。観光客を熱心に誘致することに傾注せず、保健医療や福祉施策、文化政策の充実した住みやすいまちを目指すこと。それでこそ将来の税収増も見込めるのではないだろうか。
 コロナ禍のもたらした失業、倒産、教育・保育はじめ、子どもたちの育ちを支える現場の危機、高齢者や障害のある人たちへのサービスを提供する事業者の危機等、市が立ち向かうべき政策課題は山積している。財政が厳しい中にあっても、これまでのサービスをどのように維持するか、さらなる拡充をどう実現するか、それこそが地方自治の本旨に立ったあるべき政策検討である。市民生活を切り捨てることで自治体財政の危機を乗り越えようとする〈浅はかな哲学〉から、いい加減に卒業していただかねばならない。

i (広報資料)京都市持続可能な行財政審議会の設置について(2020年6月22日京都市行財政局)
ii 審議会資料は下記「京都市情報館」より閲覧可能(2020年11月17日閲覧)
https://www.city.kyoto.lg.jp/menu5/category/69-33-0-0-0-0-0-0-0-0.html
〈参考文献〉『Basic 地方財政論』 重森曉・植田和弘編(有斐閣ブックス467)
ⅲ SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)とは、民間資金を活用して革新的な社会課題解決型の事業を実施、その事業成果(社会的コストの効率化部分)を支払の原資とすることをめざすもの
ⅳ 国は新型コロナウイルス感染症対策として、さまざまな財政出動を行っているが、自治体の財政基盤の危機に対応しきれていないと考える

委員名簿(五十音順、敬称略) ●:会長
氏 名 役  職
安保 千秋(あぼ ちあき) 弁護士
上村 多恵子(うえむら たえこ) 京南倉庫株式会社代表取締役社長
川﨑 雅史(かわさき まさし) 京都大学大学院工学研究科教授
●小西 砂千夫(こにし さちお) 関西学院大学大学院経済学研究科人間福祉学部教授
齋藤 由里恵(さいとう ゆりえ) 中京大学経済学部准教授
中村 幸太郎(なかむら こうたろう) 市民公募委員
宗田 好史(むねた よしふみ) 京都府立大学教授
横井 康(よこい やすし) 公認会計士

(図)今後必要となる改革の規模(パターン別の各年度の公債償還基金取崩し額比較)

ページの先頭へ