鈍考急考 13 原 昌平(ジャーナリスト)政争ではなく産業や都市格の議論を  PDF

 乱暴な物言い、強引なやり方は、パワフルに映って人気を集めることがある。現状に閉塞感を抱く人々は、その突破力に期待するのだろう。
 しかし、そういう手法には限界があるし、何度も繰り返されたら嫌気がさす。
 いわゆる「大阪都構想」は5年前に続き、住民投票で小差ながら再び否決された。
 力とイメージだけでなく、制度の内容や誠実性を見て判断した人々がけっこう多かったということかもしれない。
 大都市の地方自治制度のあり方は、昔からある難しい課題で、いろいろな提案や議論があってよい。
 だが大阪都構想は、橋下徹氏が知事のとき、当時の平松邦夫大阪市長と意見が合わず、権力集中の手段として言い出したものだ。大阪市の課題を分析したわけではなく、独裁のための思いつきだった。
 東京と張り合いたいという心情に訴え、自分が作った政党の看板にしたが、維新が全国政策で掲げる道州制とは全く整合しない。
 今回、否決された要因はいくつかあるだろう。
 ①「大阪市廃止」という選択の本質が、選管ポスターや投票用紙に明示された。
 ②4つの特別区に分けたら当然、コストが増える。効率化というのは無理がある。
 ③特別区が大きすぎて、身近な自治体にならない。
 ④区割りが不自然。港区や此花区が新・淀川区、住吉区や住之江区が新・中央区というのは地理的一体感を欠く。
 ⑤行政組織の再編で経済が成長するわけではない。
 ⑥外国人観光客で潤っていた飲食、宿泊などの業界がコロナ禍で打撃を受け、維新が誇っていた大阪経済の張りぼてがあらわになった。
 ⑦衆院選と絡めた裏取引で公明党を抱き込んだものの、公明支持層は必ずしも党の言いなりにならなかった。
 ⑧自民、共産、立憲などの政党だけでなく、無党派の自発的な反対運動があった。
 とはいえ小差。組織政党となった維新の力は侮れない。
 維新はポスター、街頭演説など日常的な宣伝量が多い。「二重行政」「大阪の成長を止めるな!」といったフレーズ作りもうまい。きっと次の手を打ってくるだろう。
 気になるのは、維新も、今回反対に回った政党も、産業政策が弱いことだ。
 大阪は江戸時代には商業都市として、明治以降は工業都市として栄え、一時は日本最大の人口を誇った。しかし重工業に続いて家電産業も衰えた。情報・文化は東京に集中し、銀行や製薬を含む大企業の本社も東京へ移った。貧困率も高い。
 今後どうやってメシを食うかを考えないといけない。
 維新が掲げるカジノ、万博、鉄道や道路のインフラ整備が長期的な産業づくりにつながるようには思えない。
 左派が強調する中小企業支援は重要で、福祉・教育も経済維持に欠かせないが、産業育成の具体性は乏しい。
 都市の魅力も影響する。学問、文化、芸術、緑地、風物などは人をひきつけ、人々の交流と創造の土壌になる。
 制度いじりの政争ではなく、そういった正面の議論をしたいものだ。

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