医師が選んだ医事紛争事例 128 子宮全摘術後に癒着性イレウス発症  PDF

(40歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は高血圧等で通院中のA医療機関からの紹介で、本件医療機関を受診した。本件医療機関では子宮は超鷲卵大であると診断。エコー上、筋腫核を多数確認し、粘膜下筋腫は19×18㎜で、その他56×42㎜、26×25㎜大等の筋腫を認めた。初診から約1カ月後に行ったMRI検査でも同様に筋腫核を認め、腟式子宮全摘術は困難と判断し、開腹で子宮全摘術を実施することとした。開腹所見としては、腸管ガスが極めて多く、左付属器には癒着が見られたため、剥離した上で子宮を全摘した。患者は、術後から翌日にかけて創部痛、嘔吐、咽喉痛を訴えたため、ボルタレン坐薬○R挿入やドロレプタン○R静脈注射を実施した。その後、創部痛は軽快に向かい、手術から約1週間後に退院した。
 退院から約10日後の外来での診察では、下腹部痛はあったものの、出血はなく異常所見は認められなかったため、1年後に卵巣検診を行う予定とした。ところが、この外来診察の約1週間後にB医療機関に急性腹症で救急搬入され、空腸の狭窄所見が見られたため、その5日後に開腹術を実施。さらに10日後に退院した旨の文書がB医療機関から送られてきた。
 患者側は、術中に腸の癒着をきたすミスがあったか、あるいは患者が腹部の異常を訴えていたにもかかわらず、本件医療機関はレントゲン撮影を行わず適切な対応を取らなかったとして、証拠保全の後、調停を申し立て500万円の賠償金を要求してきた。
 医療機関は院内で事故調査会を開催し、以下の理由から無責を主張した。
 ①子宮筋腫に対する手術の適応があった②術前評価についても、腸管ガスが多かったなど腸管機能に問題を認めていたが、その他について過誤を認めるものがない③術後の患者への対応等についても、下腹部痛に対し適切に投薬をしており、その他についても過誤を認めるものがない④手術手技に関しては、術中トラブルもなかったことから問題は認められない⑤手術創に関しても6日目に抜糸、翌日に退院した⑥術後のレントゲン撮影に関しては、癒着性イレウスを疑う症状や所見は見当たらず、術後腹部単純レントゲン撮影を行わなかったことに問題はない⑦術後腸閉塞の有無に関して、退院後に受診した外来診察の時点までは認められなかった⑧癒着性イレウスの発症や原因に関しては、子宮筋腫の手術の操作や処置の誤りから発症したものではなく、開腹術による単純癒着(合併症)と考えられる⑨インフォームド・コンセントについて、カルテに術前内容や腸閉塞発生などに関する記載はないが、腸閉塞に関しては看護記録にその説明が記載されており、その他の説明についても口頭で行った旨が記載されていた。
 紛争発生から解決まで約7年要した。
〈問題点〉
 医療機関側の主張通り、診断、手術の適応、手技、事後処置、説明に関して、産婦人科としても消化器・外科としても過誤と認定できる要因はなく問題はなかった。
〈結果〉
 調停が不調となった後、患者側からの主張が途切れて久しくなったために、事実上の立ち消え解決とみなされた。

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