追悼 敬愛する先輩に捧げます  PDF

名誉理事長 山田 亮三

 振り返ると、昨日のように、鮮やかに甦ってきます。
 「それは、違うと、私は思いますよ」。真顔ですが、笑みを湛えて切り出されます。白熱する議論の中でも、私の耳が素直に応じるのです。ある時は、運転免許のない私が、便乗させてもらいます。直ぐにベルトを締めるよう促されます。車の流れが滑らかなのに、カク・カクとブレーキを踏まれます。なるほど、と合点です。そして、和室の宴席では、談論風発の和やかな雰囲気の時でも、ピンと背筋を伸ばされている姿が浮かんでくるのです。
 昭和から平成への激変の時代でした。先生は還暦を迎えられ、私は50歳になったばかりです。保険医協会では大先輩の先生には最後の、そして私には最初の、6年間をご一緒させていただきました。先生は、保険医の経営と生活を擁護すべく、15年間の長きにわたって、情熱を傾けて真摯に打ち込まれました。そのお姿こそ、私が学んだことでした。
 その後、もう30年ですが、診療所の承継も順調に運ばれ、安心されたと思います。そして、心穏やかに晩年を過ごされたことと推察申し上げます。
 先生のご尽力とご功績、その90年余の人生に、心から敬意を表します。
 老いの成熟とは、身を養いつつ・追憶に生き・未来に希望を育むこと、なのでしょうか。私の追憶に、先生が鮮やかな時代を与えて下さったことに、深く感謝いたします。
 高島基三先生 安らかに お眠り下さい。

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