医界寸評  PDF

 大田神社は上賀茂神社の近くにあるこじんまりした神社。山の麓にある。参道の東側に広がる小さな沢池は40~50メートル四方しかないが、ここには数多くのカキツバタが自生している。平安時代の有名歌人は、ここのカキツバタが可憐な紫に色づく様子を、一途な恋心にたとえて歌に詠んだ。毎年5月上旬に開花、中旬に見頃を迎える。新緑に囲まれた沢池に紫一色に染まるカキツバタ、その様、さながらエメラルドとバイオレットサファイアをちりばめた小粒の宝石のよう。歴史と文化に裏打ちされたそのきらめきは、平安京の頃からずっと変わらないでいてくれる▼緊急事態宣言下の混乱した医療現場で人々が奮闘する中、今年のカキツバタは話題になることもなく静かに満開を終えた。桜もとっくに人知れず散っていった▼長期戦の様を呈する感染症問題。難題が次々と押し寄せ、出口が見えない不透明感の中にあっては、我々の目に映る世界は、ともすれば視野狭窄的なモノトーン調となってしまう。そんな中、私たちに必要なのは、少しばかりの心のうるおいと鮮やかな色体験かもしれない▼協会は6月から新年度となる。新たな気持ちで迎えよう。6月はもう夏。夏といえば太陽の季節。太陽で連想するのはコロナではなく、ブルースカイとエメラルドグリーンに輝く真夏の海でありたい。(clear)

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