主張 新型コロナウイルス感染症対応が炙り出した我が国の医療の一側面  PDF

 このところの外出自粛で、多くの国民はテレビ番組を見る機会が増えたことだろう。その中で日本の医療について驚きのデータを見たのではないだろうか。

各国のICUベッド数

 人口10万人当たり米国34.7、ドイツ29.2、イタリア12.2、韓国10。対して日本は7.3。なぜこんなに少ないのか。ひとえに、厳しい施設基準と診療報酬上の算定基準による。特に「重症度・医療看護必要度」の月々の達成が求められ、大病院といえどもICU(集中治療室)基準を満たす患者を毎月必ず一定数確保するとなると極めて困難である。設備を備えてもICUとしては最少ベッド数でしか届出できない。4年前より約50病院がICUを返上した。また、専門医は全国で1820人と少ないこともネックで、ECMOは全国で1400台以上あるが、同時稼働能力は300台程度と言われている。
 加えて、地域医療構想で急性期病床削減が至上命令となり、公立・公的病院から順次再編統廃合が推し進められてきている。診療報酬上も入院基本料が低い段階へ落とし流す体系ができ上がった中で、各病院は病床機能分化により多様な病態の患者を引き受ける機能が削られ、全く余裕のない硬直化を来している。

増えないPCR検査数

 協会は当初からPCR検査数を増やすよう訴えてきた。首相は1日2万件可能と公言したものの、1万件を超えた日がない。2カ月も経って「どこかで目詰まりしているのであろう」と、最高司令官がこの他人事の発言である。山中伸弥教授は大学研究室等での保有機器台数を全部合わせれば1日10万件はPCR検査が可能と述べている。これに民間の研究室や病院・検査会社保有分を合わせ、フル稼働させれば他国と遜色ない件数の検査ができる。
 要は患者(検体採取)→運搬→検査ラボをつなげる人的システム(防護服整備を含む)の目詰まりである。「契約の問題がある」などとできない理由が羅列されたが、お得意の法律解釈変更で契約問題などすぐでも解決できるハズ。批判を受けて他の検査ルートを認めたが、運用に件数制限システムが埋め込まれており、やはり余り増えない。制限理由は、他に検査陽性者の収容ベッドが不足するから。初期段階ではその通りだったが、何を差し置いても全国的に一般病床・ホテル・療養施設を確保する動きは乏しかった。2カ月してようやく確保が進んだら感染者数が減少し空室状態。万事、後手後手だ。

保健所が機能不全

 政府方針の下、全国の保健所が人員半減・規模縮小となった結果、対応しきれない現状を尾身茂氏が認めた。それにもかかわらずいつまでも保健所の「接触者相談センター」での窓口対応・行政検査に終始させている。保健所職員は粉骨砕身働いているが、バッシング対象にされている。批判は保健所を蔑ろにしてきた政府に向けるべきである。

新型コロナ対策の司令官は誰?

 政府は1月30日に新型コロナ対策本部を設置した。構成は首相を本部長とする全国務大臣。これで、科学的見地に立った対策の方針を立て、国民を指導できるはずがない。「専門家会議」を招集した初会合は2月16日。ちなみに、関連会議は他に「新型インフル対策閣僚会議」、その傘下の「有識者会議」、さらにその傘下の「基本的対処方針等諮問委員会」もある。どの会議がどれだけ責任を負うのか全く不明。緊急事態宣言は「諮問委員会」で決めた。ところが、首相会見には毎回「専門家会議」副座長の尾身氏を同席、医学的解説をさせて「80%外出規制」等は全てこの「専門家会議」が決めた、「責任はそちら」という構図を演出し続けた。
 さらに、自粛要請の具体的内容や基準は都道府県知事が決めること、「責任は各知事に」と首相や西村担当大臣は法律の建付論を展開した。知事側は財政的補償がない限り営業停止要請などできない。国の当初補正予算案は喫緊の国民救済の発想などない「収束後の成長戦略」中心。これでは国民や知事らは救われない。首相の責任を問いたい。

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