診療室 よもやま話 第16回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

血圧脈波検査

 血圧脈波検査は、動脈の硬さと狭窄・閉塞の二つの指標を同時に測定する検査であり、臨床では役に立つ検査として用いられている。
 糖尿病と高血圧で通院されている七十歳代の女性である。活発な方で旅行にもよく行っておられた。
 「最近も旅行に行っておられますか」
 「いいえ、最近は行くのがおっくうで」
 「どうしてなのですか」
 「少し歩くと足が動かなくなるのです」
 「で、休むと戻るのですか」
 「そうです。よくご存じで」
 典型的な間歇跛行ではないか。
 脊柱管狭窄症かもと思いながら、血圧脈波検査を実施した。実は診察時に、この検査をするのは時間がかかるので嫌なのである。しかし、このような事例では仕方ない。その結果を見て驚いた。左下肢の狭窄・閉塞の指標が極度に悪い。どこかで手順を間違ったのか、マンシェットの巻き方が悪かったのかと疑ったくらいである。
 早速、結果を持たせて病院に紹介した。3D-CT検査や血管造影で動脈閉塞が確かめられて、血管内治療を受けることとなった。血管内治療で間歇跛行がなくなり、また旅行に行けると、患者さんからすごく感謝された。
 この症例があってから血圧脈波検査が役に立つことを実感して、同じような症状の患者さんには利用していた。
 もちろん健康保険の点数が付いている。ポリグラフ検査(3~4誘導)130点でレセプト請求して、数年間はレセプトが返戻されることもなかった。
 ところが、数年前の話であるが、ある月に実施した数人分の検査が、すべて30点減点された。ポリグラフ検査ではなく血管伸展性検査100点で請求するようにと補正査定され減点となった。心電図、心音図、血圧を測定しているのだからポリグラフ検査3誘導で間違いない。その上、2006年に京都府の国保診療報酬審査委員会でポリグラフ検査(3~4誘導)と確認されていて変更になったとの連絡もなかった。血管伸展性検査と言えば、指先をセンサーに入れるだけの容積脈波や加速度脈波検査のような簡易検査である。
 何かの事務的間違いに違いないと思い、詳細に理由を記載して再審査請求書を提出した。
 そのようなある日、午前の診療が終わってホッとしていると国保連合会から電話があった。自院の事務が何かの問い合わせをした報告だろうと思いながら電話に出た。
 「先日のポリグラフ検査のことで、再審査請求を出されましたね」
 「ええ。ポリグラフ検査で査定されたもので。何かの事務の間違いと思い、再審査請求を出しました」
 「いいえ、今月の審査からは血圧脈波検査はポリグラフ検査での請求は認められなくなりました。血管伸展性検査の扱いになったのです」
 「心電図、心音図、血圧をつけて検査をしているのだからポリグラフ検査3誘導なのではありませんか」
 「それはそうなのですが。滋賀県では以前から血管伸展性検査になっているのです」
 「滋賀県がそうだと言って、京都府もそうする必要があるのですか」
 「いや、そうする必要もないのですが。血管伸展性検査は、この検査のために設けられた点数のようなのです」
 「厚生労働省から指導があったのですか」
 「いいえ、特に厚労省から言ってきた訳ではありません」
 「忖度なのですか? ポリグラフ検査のままでよいではありませんか」
 「そうもいかないのです。そんなことをおっしゃるのなら、先生が厚労大臣になってもらうより他ないですね」
 レセプト請求にはいつも細心の注意を払っている。それが、ある月から突然に基準が変更になったと言われても困ったものである。野球の試合途中で、あるバッターからストライクゾーンが変更になったようなもので納得できない。せめて、診療報酬請求のルールが変更になるときには、事前に通知してほしいと思うのは手前勝手であろうか。

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