医師が選んだ医事紛争事例117  PDF

骨折に至る経過が不明だと…

(70歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 転倒して外傷性の硬膜下血腫を発症した。A医療機関で手術が施行されたが、左片麻痺・高次脳機能障害が残存した。その後、B医療機関をはじめ複数の医療機関で療養を継続していたが、この度本件の医療機関に入院となった。経過中に右上腕骨々幹部骨折が発見された。なお、患者は発語困難で、胃瘻も造設しており、陰部や胃瘻を触ったりするので、家族の希望により、ミトンを用いて右手を30㎝~40㎝動かせる程度に、拘束していた経緯がある。
 骨折が診断された日の前日の経過として、見舞いに来ていた患者の妻が夕刻に着替えをさせたところ、痛みを訴える表情を示し、右上腕の腫脹が見られたと指摘した。看護師が確認したところ、右上腕は左上腕より太く、腫脹があるようにも見えたが、患者は苦痛の表情を見せなかった。外表に挫創もなく出血斑も認められなかったが、念のため、翌日にX線検査をしたところ、骨折と診断された。骨折の原因として外力がかかったことによるのは確かだが、どのような機序で骨折したのかはやはり不明とのことであった。患者側からは明瞭に賠償請求をされることはなかったが、骨折に関して医療機関側の責任を問う様子が窺われた。なお、念のため、警察に事故報告をしたとのこと。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 X-Pフィルムを見ると、右上腕骨は骨粗鬆症が高度で、骨折は斜骨折で、明らかに回旋性外力によるものと推定できた。しかしながら、どの時点で骨折をきたしたのか特定することはできなかった。少なくとも医療機関側の何らかの行為で骨折をきたしたとの経緯は明らかでない。家族が患者に着替えをさせた際に骨折となった可能性も否定できない。したがって、医療機関側の過失を特定できない以上は、賠償責任があると判断できなかった。
〈結果〉
 医療機関側は過誤を認めなかったが、装具代を支払うことで患者側の納得を得た。

ページの先頭へ