医師が選んだ医事紛争事例 115  PDF

10年前の手術で訴訟に

(50歳代前半男性※事故当時)
〈事故の概要と経過〉
 事故当時52歳の男性。10年以上前に胆石症で入院。腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けた。しかし、総胆管が損傷されたため、開腹して総胆管形成術が実施された。その3年後に黄疸を指摘されたたため、医療機関を受診して総胆管狭窄症の診断で入院となった。検査の結果、胆管十二指腸瘻を形成された部分が狭窄していると判明。医療機関は手術は困難と判断して、ネラトンチューブで狭窄部を段階的に拡張した。しかし、その後も将来の再狭窄を懸念し、患者は手術目的にてB医療機関を受診したが、そこでも同様に保存的治療が最善と判断された。なお、患者は、瘻孔拡張術を受けてさらに4年間、症状もなく、日常生活に支障なく過ごせていた。
 患者側は弁護士を介して、10年以上前の内視鏡下胆嚢摘出術で胆道損傷を併発したことは医師の不注意であったとして通知書を送付して交渉し、その後に訴訟を申し立てた。医療機関側としては、消滅時効を主張したが、医学的な調査はしていなかった。また、10年以上も前のことにもかかわらず患者が訴訟に踏み切ったのは、患者が医療機関側に憤怒しているというよりも、加齢とともに経済的に生活が不安になったことが大きいと推測された。医療機関側は、訴訟の場では不可抗力の合併症であり、医療過誤はないことを主張するとともに、消滅時効についても主張した。
 紛争発生から解決まで約5年9カ月間要した。
〈問題点〉
 胆石胆嚢炎の診断には間違いなく、胆嚢摘出術の適応にも問題ない。手技上の問題としては胆嚢管を切除すべきであったのに、結果として総胆管を損傷してしまった。しかし、その可能性については術前に説明されている。カルテ記載もあり説明義務違反はない。また、胆石胆嚢炎の程度を考慮すると一概に手技ミスとも断定できない。
〈結果〉
 医療機関側は医療過誤を認めなかったが、結果的に根負けの形となり、和解金を支払い解決した。和解額は患者請求額の6分の1以下であった。

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