2020年度改定の答申受け理事長談話 初・再診料の引き上げなし 「三位一体改革」を進める政策的改定  PDF

2020年3月3日  理事長 鈴木 卓

 中医協は2月7日、2020年度診療報酬改定について答申した。19年10月の消費税率10%への引き上げにより政府・厚労省は「社会保障と税の一体改革に関わる社会保障の制度改革が一区切り」したと評して、40年を目指した医療提供体制の改革の検討を進めている。そのため25年までに①地域医療構想の実現②医師・医療従事者の働き方改革の推進③医師偏在対策の推進―を「三位一体改革」と称して推進する考えだ。答申書よりも分厚い482ページまで膨れ上がった別添資料「個別改定項目」から浮かび上がるのは「三位一体改革」を施設基準の変更・強化により強く推し進める「政策的」改定の姿である。

一握りの急性期病棟と、その他「地域完結型」病院への再編促進

 急性期一般入院基本料にかかわる重症度、医療・看護必要度の基準が入院料1から3で引き上げられる(20年9月まで経過措置)。また、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価方法のうちB項目、C項目が変更されるとともに、基準該当患者のうち「B14診療・療養上の指示が通じる」「B15危険行動」のいずれかに該当する場合で「A得点1点以上かつB得点3点以上」が対象から外されたため、必要度基準要件が引き上げられなくても要件強化となる。急性期一般入院料2・3でも重症度、医療・看護必要度は「Ⅰ」で届け出ることが可能になったが、これは10対1への類下げの踊り場である「2・3」への階段を降りやすくするための措置だ。
 また、許可病床数400床以上の大病院は新規に地域包括ケア病棟を届け出ることができなくなった。すでに届け出ていても、同一病院内にある一般病棟からの転棟患者割合の基準を満たせない場合、基準取り下げの必要はないが点数が90%に逓減される。これも急性期医療を担う大病院の絞り込みにつながる。
 一方、救急搬送年間2千件以上や勤務医の負担軽減・処遇改善を施設基準とした地域医療体制確保加算(入院初日520点)が新設された。この点数は消費税財源を用い機能の集約化も図られる。
 これらの改定の意図は急性期医療を担う一部の看護職員配置7対1病院の絞り込みと、高齢者を中心とした慢性期医療を担う「地域完結型」10対1以下の病院の差別化だ。
 前回の改定で「重症度、医療・看護必要度」の基準値を段階的に厳しく設定すれば、病院の差別化が容易になるシステムはできていた。今後は25年の地域医療構想の実現までの間に、さらに段差を広げていくつもりだろう。地域医療構想とは医師不足・看護師不足問題を後景に追いやりながら、二次・三次医療圏における医療機関の役割を明確化し、一部の急性期医療を担う病院に医師、看護職員の配置を集中させることで、役割毎の病床数を平準化して地域間の偏在を解消したとするものであり、これを施設基準の強化で進めるための改定である。

「かかりつけ医機能」の強化と外来機能の差別化推進

 2019年4月から「医療機能情報提供制度」において「かかりつけ医機能」の情報が加えられた。これを受けて初診料の機能強化加算の施設基準に同制度を利用して「かかりつけ医機能」を有する医療機関であることが検索可能であることが追加された。また、地域包括診療加算の施設基準である時間外対応加算の届け出が3(複数診療所による連携体制対応)まで広げられた。さらに、小児科外来診療料、小児かかりつけ診療料の対象患者が6歳まで引き上げられた。
 一方、低紹介率の場合の初診料の算定対象と紹介のない患者の初・再診料の差額徴収の強要の対象となる地域医療支援病院が一般病床200床以上に拡大された。
 全世代型社会保障検討会議中間報告(19年12月19日)は「大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大」を議論の項目にあげた。社保審では紹介のない患者の初・再診料の差額徴収の強要の対象を一般病床200床以上の病院に拡大する議論がスタートしている。また「新経済・財政再生計画改革工程表2019」(19年12月19日)は「かかりつけ医の普及を進めるとともに外来受診時の定額負担導入の検討」を掲げている。今回の改定はそうした医療提供改革の方向に沿うものである。フリーアクセスを守るため制度改悪に反対し、今回の改定による外来機能の差別化推進を注視していく。

引き上げなしの基本診療料/汎用技術料の引き上げと透析の大幅引き下げ

 今回の改定で初・再診料、入院基本料、特定入院料本体が全く引き上げられなかったこと、慢性維持透析の点数が大幅に引き下げられたことは実に遺憾だ。
 初・再診料、入院料の引き上げなくして地域医療は守れない。協会・保団連はこれからも引き上げを求めて運動を続ける。
 一方、18年12月25日、厚生科学審議会・医薬品医療機器制度部会「医薬分業に関するとりまとめ」において「院内調剤の評価を見直し、院内処方へ一定の回帰を考えるべきであるという指摘があった」等の意見を受けて入院外の患者に対する調剤料が内服薬等、外用薬それぞれ2点ずつ引き上げられた。また、静脈血採取料が5点引き上げられた。さらに、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科の汎用処置と汎用手術が一部引き上げられた。
 これらは保険医の粘り強い引き上げ要求の成果だ。院内調剤の評価引き上げおよび一包化の評価の新設など、汎用点数の引き上げは引き続き要求していく。

安上がり医療拡大を目的としたオンライン診療の拡大に反対

 「働き方改革」への対応を名目に、地域医療体制確保加算の新設に加えて、医師事務作業補助体制加算、看護補助者の配置や看護職員・看護補助者の夜間配置に係る点数が引き上げられた。しかしその配点は人員配置基準等に沿うものでなく一律的で杜撰なものだ。また、施設基準における常勤者要件を緩和し非常勤または非常勤職員を組み合わせた常勤換算で要件を満たす取扱いの点数が増やされた。
 政府・財界・支払側が求めるオンライン診療の緩和については、在宅自己注射の一部の患者、慢性片頭痛の患者に対象が拡大されるとともに、事前の対面診療が必要な期間が3カ月に縮小された。
 オンライン診療は医療の不足する地域等で活用されるべき利便性もあるが、政府・財界・支払側が求めているのは、医師の診療技術を自分達の都合の良い時間帯に便利に安上がりに使いたいということだ。今回、新型コロナウイルス感染への対応として、慢性疾患等を有する定期受診患者等について、電話や情報通信機器による再診により、患者が選択した薬局へ医療機関から処方箋をFAXすることで処方できる臨時的取扱いが示された。だが、現行点数表では電話再診による外来管理加算、医学管理等は算定できず「安上がり」となる。しかし「それでも問題なく処方された」ことだけが独り歩きすると、この災禍が歪な形でオンライン診療の浸透材料に使われないか危惧する。「ショック・ドクトリン」の如くなし崩し的に拡大させてはならない。医師の診療技術を安上がりに見繕うとする動きには強い意志を持って戦うべきである。
 その他、点数改定の詳細な解説は保団連『点数表改定のポイント』を、各科別の評価は本紙連載「診療報酬改定こうみる」をぜひご覧いただきたい。
 会員におかれては、協会・保団連が行う不合理是正要求運動へのご協力を強くお願いしたい。

 *正式告示・通知により、内容は変更されることがあり得ます。

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