医師が選んだ医事紛争事例 111  PDF

僅か15分の間に心肺停止状態で発見されて

(80歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
 自宅で油揚げを咽喉に詰まらせて救急搬入、肺炎が疑われたためそのまま入院となった。診療録の原疾患名に胃潰瘍・前立腺肥大症・痛風・糖尿病・脳梗塞後遺症・肺炎・呼吸不全等があったが、認知症という病名はなかった。翌日に患者が昼食のお粥をこぼし、ナースコールがあった。看護師が来室してから、お粥を取り替えに行き、また他の患者の食事介助をしてから戻るまで約15分が経過していたが、看護師が戻った際に患者が心肺停止の状態で発見された。ただちに心臓マッサージ、薬物投与等など蘇生術を施行したが、誤嚥性の気道閉塞から低酸素脳症で自発呼吸もほとんどなく植物状態となり、1年後に死亡した。
 遺族は、看護体制に不備があったとして、弁護士を介して賠償を請求してきた。なお、医療費については支払っており、医療機関側の未収金はなかった。
 医療機関側としては、昼食はチキンチャップなどの刻み食であり、その他についても通常の看護体制を取っていたとして管理ミスを否定した。なお、低酸素脳症に至った原因を以下のように推測した。
 ①嚥下障害があり食事を詰まらせた②食事中に一過性の意識障害が生じその際に誤嚥も生じた③食事中に心筋梗塞が発症しその際に誤嚥も生じた④食事中に一過性の不整脈が発症しその際に誤嚥も生じたほか、⑤仮に認知症があれば、食事を無理に詰め込んで喉を詰まらせるような場合もあり得ると考えられた。
 紛争発生から解決まで約1年7カ月間要した。
〈問題点〉
 通常の看護体制は取られており、15分間の空白の時間も怠慢とは言い難い。また、事故原因となった昼食も刻み食にしていることから、管理ミスを指摘できるものではない。したがって医療過誤は認められなかった。
〈結果〉
 患者側に医療機関における当該患者に対する管理体制を院内・院外調査の結果を踏まえ誠心誠意説明したことにより、患者側のクレームが途絶えて久しくなったたため、立ち消え解決と見なされた。

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