医師が選んだ医事紛争事例109 糖尿病の患者はより慎重に  PDF

(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は自宅の浴場で転倒して、右足の内側を挫創し医療機関を受診した。医療機関では、縫合処置をして、抗生剤・鎮痛剤が処方された。患者はその後も痛みが持続し、そのため痛みを医師に訴えた。医師は創感染の所見を認め、全抜糸の上、デブリドマンとドレナージを施行した。その後、CTとMRI検査を施行して、整形外科管理とした。患者は入院して、局所皮弁と植皮の手術を受け軽快退院となった。なお、患者の入院中の HbA1c は6・6であったが、通院期間中は検査がなかったので不明であった。
 患者側は、創傷処置の治癒が遅延したのを医師の診療上の過失(医療過誤)として、額は明確にしなかったが損害賠償を請求した。
 医療機関側は、手術も術後管理も適切であったとして、医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約3カ月間要した。
〈問題点〉
 右足内側の挫創の治癒過程が問題である。1カ月たっても創傷治癒がない場合、何らかの基礎疾患を疑う必要がある。前医がいて糖尿病の治療に食事・運動療法が行われていたとの情報は得ていたようであるが、いつそれを知ったかの時期は不明である。外科的処置としては通常の適正なものであり、創傷治癒の遅延は糖尿病による血行障害による影響と考えられる。糖尿病歴が長ければ創傷治癒に影響する可能性は無視できない。経過中に糖尿病として厳密なコントロールを開始していれば、治療期間が4カ月に及ぶことが避けられた可能性も考えられよう。
 少なくとも医療機関側が患者の糖尿病罹患を認識してその治療や管理を併行して実施していれば、糖尿病の創傷治癒に及ぼす影響を患者に説明でき、治療が長引いたことへの理解は得られたであろう。今回のように結果的に治療が長引くことになったとしても、トラブルになることは避けられたのではなかろうか。
〈結果〉
 医療機関側は調査の結果、糖尿病治療実施への検討不足に過誤を認めて、和解金を支払い示談した。

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