根治性・安全性の追求と低侵襲性の向上 腹腔鏡下肝切除の展望を解説  PDF

外科診療内容向上会レポート

 外科診療内容向上会が京都外科医会、京都府保険医協会、科研製薬株式会社の共催で11月9日、京都市内のホテルにて開催された。京都外科医会の藤信明副会長が会を進行し、28人が参加した。まず科研製薬によるセプラフィルム○Rの情報提供に続いて、京都外科医会の谷口弘毅会長および協会の鈴木卓理事長があいさつし、協会の曽我部俊介理事による情報提供が行われた。

 京都医療センター外科統括診療部長の猪飼伊和夫氏を座長に、滋賀医科大学外科学講座消化器・乳腺・一般外科講師の飯田洋也氏による特別講演「当科における腹腔鏡下肝切除の現状と展望」が行われた。
 最初に本邦における腹腔鏡下肝切除の歴史が紹介された。2010年に初めて腹腔鏡下肝部分切除と同外側区域切除が本邦で保険収載されたが、14年頃にいくつかの施設で手術関連死亡が報道され、広範囲の肝切除の保険収載が疑問視されることもあった。しかしながら、16年には肝葉切除、区域切除、亜区域切除が保険収載され、前向き症例登録による学会や研究会での検証が同時に行われてきた経緯がある。
 次いで、滋賀医科大学における腹腔鏡下肝切除の現状が説明された。手術適応としては胆道再建、門脈再建などの再建手技を要するものや脈管侵襲を伴うものは適応外とし、10㎝を超える巨大腫瘍、4個以上の多発腫瘍は症例ごとに決定することとし、それ以外は開腹肝切除後を含めて腹腔鏡手術を第一優先としているという。
 腹腔鏡下肝切除の遂行には安全性と根治性の担保が重要であるが、そのための三つの工夫が述べられた。一つ目は、アシアロフュージョンCTシミュレーションである。アシアロシンチ3D画像とダイナミックCT画像をフュージョンさせることにより残肝容量ばかりでなく残肝機能容量をも考慮して肝切除範囲を決定し、肝不全予防の検討の一助となすとものである。二つ目は、バイポーラー型ラジオ派デバイス(Aquamantys○R)であり、強力な止血力を特徴として、より安全な肝実質切離を目指すものである。三つ目は、ICGアンギオによるナビゲーションサージェリーである。開腹で肝亜区域切除を行う際にはエコー下の色素門脈穿刺を用いることがしばしばあるが、腹腔鏡下で同様の手技を行うのは困難である。そこで、手術前日に担癌領域の動脈へICG試薬と塞栓物質を動注してICG塞栓を形成させ、術中の近赤外線蛍光画像を用いナビゲーションサージェリーを行うものである。
 今後の腹腔鏡下肝切除の展望としては、ナビゲーション手術の発展とロボット手術の保険収載が挙げられる。さらなる根治性、安全性の追求だけではなく、低侵襲性の向上が一層期待されている。
(乙訓・藤 信明)

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