声明 野党の議員連盟による「かかりつけ医」 登録制の危険性を訴える  PDF

 「かかりつけ医」登録制が争点へ浮上してきた。国から「家庭医」あるいは「総合科」など様々な名称で、繰り返し提案され、その都度、押し返してきた制度の再浮上である。
 だが今回、「かかりつけ医」登録制を正面から掲げたのは、立憲・国民らで構成する「『医療の民主化』改革で、次世代に責任ある政治を実現する議員連盟」である。同議連が、「予防中心の医療の実現のための医療制度改革 政策大綱(たたき台)」をまとめ、「かかりつけ医」制度の創設を打ち出したのである。
 議連の構想は、診療科は問わず一定の研修を修了したかかりつけ医を、患者一人につき一人登録し、フリーアクセスを維持するとしつつも「かかりつけ医」以外の医療機関を直接受診すれば一定額の負担を求める。「かかりつけ医」はプライマリ・ケアを担い、「二次医療機関」受診の必要性を判断、医療情報の一元把握やターミナルケアも担う。報酬は包括報酬も想定される一方、「予防管理」を医療保険で給付するよう求めている。
 こうした構想は政権の動きに符合し、後押しする。2016年12月の経済・財政再生アクションプログラムが「かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担の導入」を求め、2018年4月の診療報酬改定では「かかりつけ医機能」明確化をはかる初診料への加算が導入された。2019年6月25日には日本経済新聞が「かかりつけ医」の登録制を厚生労働省が検討と報道した。根本匠厚生労働大臣(当時)は否定したが、かかりつけ医登録を前提に「定額負担」も検討されていることは間違いなく、国も「かかりつけ医」登録制導入へ動いている。この局面での野党による提案は深刻な事態をもたらす。
 議連構想には大きく4つの問題がある。
 1つは、「かかりつけ医登録制」は、本質的に「いつでもどこでも誰でも保険証一枚で必要な医療を必要なだけ保険で提供する」という国民皆保険の理念による患者の権利保障と相容れない。フリーアクセス制限、医師のプロフェッショナルフリーダムに基づく診察・治療の制限、患者登録によって導き出される「必要医師数」に基づく自由開業制規制も危惧される。類似の制度を持つイギリスでは国民の不満の的にもなっているといわれている。
 2つ目に、医師・医療機関間に無用な競争が持ち込まれる。患者が一人の医師のみ登録が許されるシステムでは、誰が患者をより多く獲得するかが課題にならざるを得ず、各医師が専門分野を持ち、患者を中心として互いに協力・連携しあう状態も崩れる。
 3つ目に、「予防医療」に対する過度な期待である。政権が9月に立ち上げた全世代型社会保障検討会議における「予防」で「健康寿命の延伸」が可能となり、医療・社会保障にかかる給付増加に歯止めをかけるという発想も、議連提案と符合する。予防は必要だが、それによる医療費削減効果は認められないと指摘する識者は多い。そこに多くの医療リソースを割くことになれば医師・医療従事者不足を助長しかねない。「健康寿命の延伸」が医師の診療報酬のアウトカム評価に用いられたり、患者の健康自己責任論の増長に用いられたりすることも予想される。
 4つ目に、想定されている「かかりつけ医」像は結局のところ内科系の医師だが(それ以外の科は想定しにくい)、家庭医療専門医や総合診療専門医との混乱が見られる。すでにかかりつけ医として診療にしている開業医の実態に目を向け、再検証していただきたい。
 私たち京都府保険医協会は、今回の議連の動きを憂慮し、あらためてかかりつけ医登録制の問題点について、議員各位に訴えていく所存である。
2019年10月29日
京都府保険医協会
2019年度第10回理事会

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