談話 厚労省は公立・公的病院の「再編統合」 対象リストを撤回せよ  PDF

 厚生労働省は9月26日に開催された第24回目の「地域医療に関するワーキンググループ(座長・尾形裕也九州大学名誉教授)」において、2025年の地域医療構想の実現に向けて再編統合対象と考えられる全国424病院の公立・公的病院名を公表した。京都府においては市立福知山市民病院大江分院、舞鶴赤十字病院、国保京丹波町病院、独立行政法人国立病院機構宇多野病院の4病院が「再検証要請対象医療機関」に名指しされた。
 厚労省が行った今回の措置は、今日の厚生行政が、一体何を政策目的としているのかという点で多くの疑問点を指摘することができるが、当面、公立・公的病院の再編策という点に絞って以下の4つの問題点を指摘しておきたい。
 第1に、今回の措置がとられたことにより、地域においては実質的な病床削減が強制され、医師偏在が加速し、地域住民が必要とする医療が提供できなくなることである。議論の経過を見れば、いずれこれが民間医療機関へ波及することも十分予測される。
 第2に、これらの対象病院を選ぶ際に用いられた指標自体が持つ問題である。「診療実績」とし病床機能報告で集めたデータから、がん・心血管疾患・脳卒中の治療、手術の実績や救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣の実績を拾い出し、下位33.3パーセンタイルの足切ラインを設定してそれ以下の病院を選んだとされている。しかしこれらの基準は、地域で医療機関が担っている役割の限られた側面を表すものに過ぎない。
 また、類似かつ近接する医療機関が存在する場合も対象となるとされているが、その近接性を「自動車での移動時間が20分以内」で計っている。これは、移動手段が自動車か公共交通機関しかないうえに、それ自体が失われつつある地方の暮らしの実態を無視するものである。
 また、国と自治体との関係において、3点目の問題が指摘できる。政府・厚労省による地方自治への新たな介入という問題である。地域医療構想や地域医療対策協議会などあたかも都道府県の権限を強めるかのように見せかけながら、病床削減や医師配置を強制的手法でコントロールし、協議による結果だとして責任は取らない仕組みである。これに対し、全国知事会、全国市長会、全国町村会などから即座に批判の声が上がったのは当然だ。
 そして、第4に、医療界自体の問題である。このワーキンググループの構成員には日本医師会や病院関係などの全国団体が名を連ねているが、同会議で日本医師会の中川俊男副会長は、今回の措置は「地域医療構想調整会議の機能を活性化させるため」だと述べている。及び腰というよりも当局への迎合と言われても仕方がない。むしろ、今回の措置は、地方の医師確保・偏在是正にも逆行し、政策に一貫性がないと指摘すべきものだろう。
 京都府において名指しされた病院は、人口減少、高齢化地域で地元の医療を支えている医療機関と、一般の民間病院では担いきれない特殊な疾患の患者を長期的に受け入れている医療機関である。地域で診療所の医師たちが安心して医療を行うためには、こういった公立・公的病院の存在は不可欠である。厚労省は、地域での医療確保に向けて偏在対策に取り組んでいるようだが、本気で取り組む気があるのであれば、今回の再編統合対象リスト自体を撤回すべきである。
2019年10月18日
副理事長 渡邉 賢治

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